第421回『心は自分の中の他人が作る!仏教の無我と認知心理学』(2019年9月8日大阪 66min)
(2019年9月28日)
1.無意志の脳活動が司る心の働き
現在の心理学の知見では、心を形成する知覚や感情や意志・欲求は、我々の意識ではなく、我々が自覚できず、制御できない無意識の脳活動によって形成されている。よって、我々の意識は、好き嫌いの感情をなかなか制御できず、そう感じる理由・原因をよく知らず、その形成のプロセスも知ることができない。
2.感情の形成も推理・判断
私たちの意識には、感情は本質的で、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いで、理由・原因がないように感じられるが、無意識の脳活動では、感情は、様々な理由・原因・ルールに基づいて推理・判断して形成される。しかし、意識は、それを知らず、無意識の脳活動が至った好き嫌いの結論=アウトプットだけが知らされる。
その理由・原因・ルールには、乳幼児には、父母を含めた他の人々の言動・価値観・習慣に接して取り込んだ(コピーした)ものがあって、その後は、自分が繰り返し経験した外界の印象や、情報化社会の膨大な情報を意識的ないしは無意識的に吸収したものなどがある。
よって、感情とは、自分が自分の中で作り上げたものではない。自分が制御も知ることもできない無意識の脳活動が、様々な他者・環境・万物の影響を受けて形成したものである。その意味で、他から独立した「自分」の心(感情・意志・欲求)と言えるものはない。それは、私の中に「もう一人の他人」が存在しているとも表現できる。そして、これは、ヨーガや仏教が説く「心は私のものではない(無我)」という思想とよく一致する。
3.心をコントロールする方法とは
仏教・ヨーガの目的の一つは、心の制御である。ヨーガとは心のコントロールという意味がある。しかし、心は、普通は無意識が司っていて、なかなか制御できない。その心をどのようにコントロールするのか、これがヨーガ・仏教の数千年の探求課題であった。