【教本の紹介】の新着情報
- 2025/04/23
- 2020年GWセミナー特別教本「コロナ感染問題と仏教・ヨーガの思想、人類の未来」
- 2022/01/23
- 2019年~20年年末年始特別教本「第2章 ヨーガの真我の思想と最新の認知科学」
- 2022/01/20
- 東西心理学総論教本のご案内
- 2022/01/20
- 《第1集》 『心理学・心理療法の基礎を築いた三大巨頭 フロイト、ユング、アドラー』
- 2022/01/20
- 《第2集》 『人格の分析と改善 交流分析・愛着理論』
- 2022/01/20
- 《第3集》 『認知行動療法の系統 マインドフルネスから慈悲まで 仏教に近づく現代の心理療法』
- 2022/01/20
- 《第4集》 『前向きに生きる ポジティブ心理学、ロゴ・セラピー』
- 2022/01/20
- 《第5集》 『感情に流されないで生きる 心・感情のコントロール法』
- 2022/01/20
- 《第6集》 『心理学・脳科学による宗教思想の検証』
- 2022/01/20
- 《第7集》 『社会的問題の心理学』
このコーナーについて
上祐史浩の特別教本、講話などをご紹介 (2015年2月21日)
このコーナーでは、上祐史浩およびひかりの輪編集部の著した特別教本の一部と、それを解説した講話などをご紹介しています。
ひかりの輪では、年末年始、GW、お盆などの連休ごとに行うセミナーごとに、毎回のテーマに沿った教本を作成し、学習していますが、その特別教本をこのコーナーで一部公開しています。
これらの教本や講義は、自分と他者の比較をして優劣をつける習慣が強い現代の競争社会にあって、幸福な心で生きていくために役立てていただけるのではないかと思います。
このコーナーではその教本の一部をご紹介していますが、こちらから特別教本は購入できます。⇒特別教本の購入へじっくりとお読みいただき、智慧、勇気、愛を培っていただければ幸いです。
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※教本の中の「宗教」や「宗教的な内容」に関するご注意① ひかりの輪は、宗教ではなく、東西の思想哲学の学習教室です。特定の宗教宗派、
神仏、人物(歴史上の人物を含め)、経典・聖典を信仰していません。② この教本の中で、仏教・神道・道教・仙道・ヴェーダ・ヒンズー教・キリスト教
の思想の一部を解説・紹介しているものがありますが、それらを信仰することを
推奨するものではありません。それらの宗教の思想に関して、盲信を排除し、理性に基づいて研究・検討し、
その一部に、合理的で有益だと思われたり、そのように解釈ができると考えた
思想があれば、それを解説ないし紹介したものです。
こうした実践は、宗教ではなく、宗教哲学と呼ばれることがあります。
よって、ある宗派・経典・宗教家の一部を、私たちなりの解釈で紹介しても、
すべてを紹介していることはありません。③ この教本は、現在までの科学では説明がつかない事項に関する記載を含んでいます。
たとえば、上祐代表らがなした不思議な体験・シンクロ現象などや、多くの東洋
思想が説く、目に見えないエネルギー(気・プラーナ)の思想・霊性・霊性を増
進する修行、さらには自然療法・温泉療法・民間療法・ヒーリングや占星学に関
する記載です。しかし、ひかりの輪は、そうした体験・思想・世界観・技法・技術を絶対化・神
格化・宗教化する意図は全くありません。
さらに、それらに対して、過度にのめり込まずに、理性による疑問・批判の精神
を堅持し、バランス感覚を維持することが必要だと考えています。
その一方で、現在の科学で説明がつかないものを、はなから否定すれば、現在の
科学を絶対化・盲信することになりかねず、それは、「宗教における盲信」と同じ
性質のものであり、真の知性・理性・叡智の否定だと考えます。
たとえば、それらの中には、経験的に広く有効性が認められ、実用化されている
ものもあります。科学哲学の研究でも、科学と疑似科学(にせ科学)の境界は不
明確というのが通説です。よって、安直に不思議なものを絶対化する過ちと、現在の科学で説明不能なこと
は何でも切り捨てる過ちの双方を避け、バランスを取ることが、人間の知性・叡
智の進歩にとって最善だと考えています。
特別教本:一部特別公開
2020年GWセミナー特別教本「コロナ感染問題と仏教・ヨーガの思想、人類の未来」 (2025年4月23日)
2020年 GWセミナー特別教本「コロナ感染問題と仏教・ヨーガの思想、人類の未来」
第2章 新型コロナウイルスと苦楽表裏の思想
1.はじめに今回の新型コロナウイルスの感染問題に関して、ひかりの輪が学んでいる仏教などが説く普遍的な道理は、よく当てはまる。例えば、目先の利益の裏には長期的な損失があること(苦楽表裏・苦楽の輪)、個々人や社会には循環性があること(歴史は繰り返す・時の輪の思想)、自己を客観視することの重要性と困難(無我の思想)、危機に際して、特に重要である心の安定と智慧、自己中心を抑制して助け合うことの重要性(慈悲の実践)などである。
そして、今回の感染問題は、こうした普遍的な道理の生きた教材であり、感染問題への対処と、コロナ後の世界を生き抜くための重要な智恵を私たちに与えてくれるものだと思う。こうした視点に基づいて、この問題に関して以下に考えてみたいと思う。
2.都市封鎖による大気汚染減少で7万人が救われた新型コロナウイルスの感染拡大で都市封鎖を行った中国は、その経済活動が大きく低下したために、大気汚染が相当に減少しているそうである。その結果、大気汚染によって奪われて来た、なんと「数万」の命が、逆に救われる可能性があるという。
中国の公式な発表では、新型コロナウイルスに感染した死亡者は約3千人である。しかし、大気汚染の死者は毎年120万人に上った。また、大気汚染は、新型コロナウイルスの感染にも悪影響があって、実際に、汚染が少ない地域では、新型コロナウイルスによる死亡率が低かったという事実があるそうだ。
そして、今回の都市封鎖による汚染の軽減によって、米大学の試算によれば、7万人の命が救われたとされる。汚染が少ない地域はコロナの死亡率も低いそうである。
(出典https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/041000226/?P=2)ところが、今、経済を急速に再開する中国は、前より汚染がひどくなる兆しもあるという。結果として、以前にもましてコロナの何十倍も人が死ぬということである。これは、根本的なところで、何かがおかしいままに、世界が進んでいっているように思われる。いや、より正確に言えば、これまでもあった大きな問題が、今回をきっかけとして、よりいっそう明らかになりつつあるのだろう。
それは地球規模で進行している無秩序な経済開発の問題である。化石燃料による大気汚染では、中国では毎年の死者が120万人と推計されているが、経済開発が続く世界全体では、880万人が死亡している。(出典https://www.afpbb.com/articles/-/3215540?page=2)
光化学スモッグなどの大気汚染は1970年などの日本でもひどかったが、現在は公害規制などが進んで問題が緩和されている。現在大きな問題が生じているのは、規制が十分に行き届かない途上国が中心であろう。さらに、大気汚染をもたらす化石燃料の消費は、温暖化ガスを排出する結果として、地球温暖化・気候変動による大きな破局を招くものでもある。
しかし、こうした問題は、新型コロナウイルスの問題に比較すると、大きな話題にならない。一つは、日本にとっては外国の問題であり、国際社会においては途上国の問題であるからだろう。温暖化の問題も、途上国の受ける被害が、差し当たっては先進国よりも大きくなることが予想されている(温暖化は、将来の問題だからかもしれない。現在の社会で権力を持つ高齢者層が、直面する問題ではなく、一部の若者が憤り、積極的な反対活動をしていることが最近は注目されるようになった)。
こうして、新型コロナ問題は、人類の問題全体を焙り出すもののような気がする。それは、人類に大きな意識の転換、パラダイムシフトを求めているのではないか。
3.人災としての新型コロナウイルス問題こうして、経済活動の増大が、大気汚染に限らず、地球規模の破壊・破滅を招くということは1970年代に言われるようになっていた。主に、二つの主張があって、一つは、経済成長 ⇒ 環境破壊 ⇒ 森林減少 ⇒ 温暖化ガスの吸収源の減少 ⇒ 温暖化の進展による人類の危機という主張である。もう一つは、森林破壊 ⇒ 野生動物・種の絶滅という主張である。
そして、最近の新型コロナウイルスの問題を通して、この環境破壊・森林破壊の3つ目の災厄があることを知るに至った。それが新型感染症の続発である。
1970年頃から、人類が長らく経験してきたペスト・天然痘などの伝統的な感染症に代わって、動物と人間の双方に感染する人獣共通感染症と呼ばれる「新しい感染症」が現れるようになり、その一つが今回の新型コロナウイルスである。これは、元は野生動物の感染症であり(新型コロナウイルスはコウモリが源)、感染症対策の専門家の国井修氏によれば、人間の経済的な動機による無秩序な自然開発・森林破壊・野生動物売買などを原因として、人類社会全体が広がったものだという。
(出典https://www.newsweekjapan.jp/magazine/266271.php)すなわち、これは「人災」だということである。人類は、自然・野生動物から、経済的な利益だけを得ようとしたが、感染症も一緒についてきたというわけである。その意味で、国井氏は、(感染症問題において)一番怖いのは、自分達自身=人類かもしれないと言う。今や、先進国と途上国、そして、人間と動物の健康は一体であり、一つの世界、一つの健康という考え方が必要だと言う。
そして、この話には、まだ先がある。新型コロナウイルスを含めて、ウイルスや細菌は、人の体に入って増殖しすぎて、その人が死んでしまえば、自分たちも死ぬ運命である。ウイルスや細菌は、人間の敵のようで、実際は人間と運命共同体だ。自分たちと一体である他者を破壊しすぎれば、自分たちも滅びる。
だとすれば、地球の中の人類はどうなのであろうか。地球の中で増殖しすぎて、その活動を増大させすぎて、自然を破壊しすぎたら、どうなるだろうか。こう考えると、大気汚染や温暖化問題だけでなく、今回のエピデミックが、人災の側面があって、人類自身の過剰な金銭主義・消費主義が、人命の莫大な損失を招いていることを認識する必要があると思う。
さらに、自分たち人類の中の犠牲者・被害者が生まれるより前に、自然環境・野生動物という犠牲者・被害者が存在していたことを認識することが重要だと思う。今私たちが経験していることは、消費主義・経済至上主義の自分たちの社会がなしたことのしっぺ返しではないだろうか。
4.自己を客観視することの重要性と難しさそして、今回においてもよく言われる普遍の道理が、よく当てはまる。それは自己を客観視することの重要性である。そして、「真の敵は自分自身だ」ということである。「敵を知り、己を知れば、百戦危うからず」という孫子の兵法の中で、特に「己を知る」というのが難しいのだと思う。
今回の新型コロナウイルスに関する戦いでも、真の敵を見つけることが、勝つために重要であることは間違いがないが、それが自分の中にいるとなると、見つけ出すことは難しい。人は、自分の目は、自分で見ることができない。そして、自分の属する集団・組織・国・種(人類)に関しては、その外に出ずに、その中にいる限りは、よくわからない。すなわち、自分を客観視することは非常に難しいからだ。
その意味で、人類の視点からだけで考えると、新型コロナウイルスの問題の本質はわからないのではないか。あくまでも気持ちの持ち方として言えば、宇宙に出て、地球と人類を、外から客観的に見ようとするくらいの視点を持たないといけないと思う。
地動説を唱えたガリレオは、自己客観視ができた人物だったのだろう。400年前の人々には、自分たちのいる地球から空を見ている限り、太陽が地球の周りを回っているようにしか見えなかっただろう。人は誰もが、自己優位・自己中心的に考えて、自己を客観視することは苦手である。そして、2500年前に、仏陀こそが、自己を厳しく客観視し、自己の中に自己の幸福の敵を見つけた人物である。仏陀は、自分を客観視して(自分が自分のものと思い込んでいる)身体・感覚・心を含めた万物は、無常であり、真に自分のものとは言い難く、不安定で苦しみだと悟った。にもかかわらず、普通の人はこれを悟らず、無常ではなく、自分のものであり、喜びであると錯覚する(痴=無智・顛倒(てんどう))。それによって、様々なものに間違ってとらわれ(=煩悩)、様々な苦しみを経験する。
こうして、自己を客観視して、自分の意識の中の無智・錯覚と、それによる間違ったとらわれこそが、苦しみの原因だと悟ったのである。苦しみの根本原因は、外界・他者ではなく、自分の無智とそれによる煩悩であることを悟ったのだ。これは、仏陀の最初の説法(初転法輪)で説かれた四諦(したい)の教えである。
5.今必要な自己客観視:歴史から学ばぬ者は歴史を繰り返すそして、重要な自己客観視の一つが、過去の自分と今の自分を比較してみることだと思う。人は自分のことはよくわからず、気づいてみると、過去と同じ過ちを犯している場合が少なくない。よって、人類の歴史を学び、今の自分たちと過去の人間たちの行動を比較するのである。よく「歴史は繰り返す」というが、正確には「歴史から学ばぬ者は(同じ過ちを)繰り返す」ということらしい。
仏教的には、努めて自分を変えようと努力しなければ、繰り返された過去の行為の習慣の精神的な力(カルマ・業)によって、人は同じ過ち(悪行(あくぎょう))を繰り返し、何度も苦しみの世界に生まれ変わるという(六道輪廻)。ひかりの輪の「輪」が意味するところも、単に、円いという意味に加えて、車輪=周期的運動=循環という意味がある。
そして、こうした危機的なときは、どんな時代にも、人間の行動に共通の問題が生じる。ペストのときの問題を描いた著作がよく売れているという。外国人排斥・権威の衝突・専門家への軽蔑・暴走する世論・生活必需品の略奪・ユダヤ人の陰謀説・異分子の弾圧など、理性を失った人間の行動が見られたという。今回の現象にも通じる問題ではないだろうか。
6.米中の緊張が急速に高まっているその中で、米中の緊張が急速に高まっている。米国は、新型コロナウイルスの感染拡大で最大の被害を受けているが、中国が、感染発生の初期に情報を隠蔽して他国を誤導したことを指摘し、世界の受けた被害は、中国に責任があると主張している。
また、米国は、今回の感染源が武漢近くの海鮮市場ではなく、武漢のウイルス研究所からの流出であるとの疑惑を主張し、調査を進め、今日までに大統領や国防長官が、多くの証拠・決定的な証拠があるとまで主張するようになった(証拠はまだ示されていないが。2020年5月4日現在)。
こうした米政府の見解発表の前から、先ほど指摘した、危機における人間の理性を欠いた言動と似て、今回の感染が中国の生物兵器の行使であるという主張も、ネットなどには展開した。これに対して、中国は、当然のごとく自分たちの責任を全面否定したが、それに加え、米軍が中国にウイルスを持ち込んだ可能性があると一時期ではあるが主張したために、米側からは、まさに陰謀説として、激しい反発を買う一幕もあった。
なお、生物兵器としてではないが、中国のある教授が、研究所からの流出を推定した論文を発表していたことを中央日報が報じている(しかし、その後論文は削除され、著者の教授と連絡が取れない)。また、エイズウイルスの発見でノーベル賞を受賞したフランス人の感染症の科学者が、新型ウイルスはエイズウイルスと似た要素を持ち、自然の変異ではできようがなく、人為的な作られたものだと発表したので、フランス中が騒ぎとなった。なお、同じ趣旨の研究報告を、インドの科学者グループが報告していたが、いろいろな圧力がかかって撤回されたという。
しかし、最近の米国政府の見解は、CIA等の情報機関の調査の結果として、生物兵器でないだけでなく、研究目的を含めてこのウイルスが人為的に改変されたものとは思われないとしている。あくまでも、ウイルスの安全管理の失敗による流出という主張である。研究の目的は、ウイルスを特定する中国の力が、米国と同等かそれ以上であると示すためだったという見方がある。ただし、中国政府が、真の感染源が研究所であることを隠ぺいするために、近くの海鮮市場が感染源であるという情報操作をしたという疑惑を米政府は持っている。
そして、米国は、この研究所に対して無関係な立場ではなく、2018年頃から米国の科学者が繰り返しこの研究所を視察し、その安全管理の不足を本国(国務省)に繰り返し報告していたことが明らかになった。さらに、米国は、この研究所の安全管理水準を改善するために資金援助をしていたという情報もある。こうした事実が明らかになるにつれて、米国のメディアも、この研究所流出説を広く報道し始め、米政府首脳も、記者会見で言及し、真剣に調査中と表明するようになった。
7.米中双方から歩み寄りは見られない、対立はWHOを巻き込んで加速
責任と疑惑を全面否定した中国だが、今のところ、米国や独立組織によるこの研究所の調査については、今後の国際協力を阻害するものとして、受け入れていない。一部の情報では、今年の感染拡大以降、米国やWHOによる調査は、中国側によって拒絶されているともいう。さらに、米国は、WHOが中国寄りのために問題を悪化させたとして批判し、WHOが武漢を未調査であることを含めて、不満を表明している(WHOの調査を中国が拒絶したという情報もある)。そして、WHOへの資金拠出を一時停止しながら、トップのテドロス氏の辞任を含めた中国寄りの体制の改革を求めている。
さて、中国政府にとっては、万が一にも、武漢のウイルス研究所を感染源と認めなければならない状況となれば、多数の被害者を出した国内外から厳しい批判が寄せられるだろうし、世界中から天文学的な賠償請求がなされる可能性もある。一説によると、総被害額は5000兆円にものぼるという(日本の年間国家予算の50倍)。
米国では、民間人のグループや複数の州政府が、中国に対する多額の損害賠償請求を米国内の裁判所にすでに提起しており、さらに連邦議会も、他の被害国を巻き込んだ損害賠償請求の枠組みを作る法案を提出したという。
8.待たれる真の力を持った国際機関重要なことは、ウイルスが一気に世界中に広がる国際化した21世紀において、国際機関の最上の安全管理の下ではなく、途上国を含めた各国が、十分な安全管理能力がないにもかかわらず、自己中心的な動機で、生物兵器にもなり得るようなウイルスや細菌の改変を伴う研究をすることは、非常に大きな問題を起こしかねないということである。
そうした開発は、米国のような国から見れば、ミスによる偶発的なものだとはいっても、生物兵器による大量破壊攻撃(=第三次世界大戦の勃発?)と同等の大きな被害を与え得る事態を、回避する十分な意思がないものと見なされかねない。
そして、核兵器の場合は、核不拡散条約(NPT)があって、国際調査機関が、加盟各国の核兵器・核開発の状態を視察する組織がある。しかし、これとて核兵器を保有しつつも、それに加盟していない(ないしは脱退した)国は、北朝鮮をはじめとして少なくなく、十分には機能していない。
そして、今回のことで、生物(兵器)研究に関しても、国際的な監視機能が必要であることが明確になった。大量破壊兵器の安全管理は、各国のエゴや技術の不足を超える力を持った国際機関、世界連邦的な政府機関がなければ、十分な制御ができないだろう。
にもかかわらず、それに失敗したときには、全世界に広がってしまい、原因となった国や組織には責任を取る能力は全くないのである。
こうして、21世紀の人類社会は、これまでのような経済面だけのグローバル化では、生き残ること自体が難しいかもしれないという新たな現実に直面しているようだ。
9.第三次世界大戦に言及した安倍総理と米国の戦時的な体制安倍首相と面会した田原総一朗氏によれば、安倍首相は、「核ではなくウイルスで始まった『第3次世界大戦』」と認識を改めて、それまでためらっていた非常事態宣言を出したという。これと同時に、武漢の研究所のコロナウイルス研究の安全対策の不備でウイルスが漏れたという説が米国で強まった。
一般にはあまりよく知られていないものの、自国の核兵器の安全管理に失敗して意図せずに核兵器が使用されて始まる戦争を「偶発的な核戦争(accidental nuclear war)」という。専門家の中には、意図して起きる普通の核戦争より、次第に途上国にまで広がってきた核兵器の拡散の結果として、この偶発的な核戦争が起こる可能性が高いという主張をする人もいる。
こうした偶発的な戦争、ないし戦争と同じ規模の被害をもたらす現象は、生物兵器ないしは生物研究の安全管理の失敗をきっかけにしても、起こる可能性があることが、今回の事態で明らかになった。国際化する人類社会のネットワークを通して、瞬時に被害が広がったのである。
しかも、極めて不運なことに、今回の感染は、少なくとも結果として、21世紀の覇権を争う二つの国にまたがって起こった。中国に始まって、米国に最大の被害をもたらす結果となった。その米国の犠牲者は、現在の見通しでは6万人ほどになると予想されている。
そして、国際政治学者の浜田和幸氏によれば、現在、軍部を含めた米国の国家体制は、まさに戦時下の体制であるという。浜田氏によれば、「単に新型コロナウィルスという病原菌への対応とは思えない。アメリカ政府、特に国防関係者の間では、このウィルスはアメリカの社会や経済の基盤を崩壊させ、アメリカという国家の転覆を狙う非軍事的手段による新たな戦争という受け止め方をしているのである。『第3次世界大戦』の初戦というわけだ。」と思われるという。
(出典https://biz-journal.jp/2020/04/post_151783_3.html)
10.世界連邦の必要性まだ、この問題は始まったばかりであり、解決の道のりは到底見えない。しかし、気が早すぎるという批判を恐れずに言えば、ここからくみ取ることができる教訓は何か?
理想論と言われるかもしれないが、やはり軍事兵器も、軍事兵器につながる研究も、突き詰めれば、一元的に管理するしかないということだ。まだ、技術が未熟な途上国などを含め、他の国に任せてはいられないということだ。核兵器の場合は、各国の核兵器・核開発を査察する国際機関であるNPTがある。しかし、北朝鮮のように、これに加盟していない(ないしは加盟しても脱退した)国の査察はできないし、イスラエルのように、そもそも核兵器や核開発の存在を認めていない(隠していると疑われている)国は、対象にならない。
今回は、米国でさえ、中国の研究所の安全対策を改善させることはできなかった。米国の科学者が、武漢の施設を何度も視察できたことは、ある意味では幸運だったのかもしれない。本当に生物兵器の研究所だったとしたら、視察自体ができなかったし、そこでの研究の存在自体否定されていただろう(逆に言えば、疑われないために視察させたのかもしれないというと陰謀説になってしまう)。
よって、結論としては、WHOのような弱い組織ではなく、各国の主権・エゴを超えるほどの真の力を持った国際機関、いわゆる世界連邦政府ともいうべき組織の下に各国が存在するといった、新たな次元の国際社会を作らない限りは、こうした問題は解決できないのではないだろうか。それなくしては、核兵器・核開発・原子力発電所・生物兵器・生物研究の安全性といった、人類にとって致命的な危険を防ぐために最善の体制を構築することはできないだろう。さらに言えば、温暖化の防止の取り組みも、同様ではないか。
また、世界連邦政府といった体制ができれば、各国が軍事兵器の開発を競う必要性自体が、大きく低下するだろう(連邦政府の統治が十分でない場合は、世界連邦政府の中での内戦がおこるだろうが)。その意味で、今回のパンデミックに際して、英国の元首相のブラウン氏が「臨時の世界連邦政府を樹立すべきだ」と述べたことは、示唆的だと思う。
11.加速する世界の分裂、第二次世界大戦との類似点しかし、現実には、米国がWHOへの資金供与の一時的停止を発表するなどして、国連が弱体化し、米中対立が激化して、世界はバラバラな方向に行こうとしている。経済状況が大恐慌に似ているというが、それだけはなく、90~100年前の第一次大戦と第二次大戦の間の状況と徐々に似た要素が増えてきた。
つまるところは、誰が悪いというよりは、皆人間は、欲が出ると間違えるということだと思う。中国については、武漢の研究所の流出説の真偽はともかく、初動で感染を報告する医師の主張を封殺・隠蔽した過ちがあったことは事実である。また、WHOも(中国寄りの姿勢があったかは別にして)初動の事態の軽視や、米国による中国からの入国禁止を不要・過剰と批判する誤りがあったことは事実だろう。
しかし、一方のトランプ政権も、初期は、中国の対応を称賛さえしていた。そして、中国からの入国禁止は早期にしながら、大統領再選のための経済活動の維持の欲が出たせいか、欧州経由の感染者への対応や経済活動の制限が遅れるといった失敗があったことを批判されている。その点を、野党・民主党に批判されており、中国・WHOへの批判は、国内からの批判の矛先をかわし、大統領選における不利を解消するためだという見方もある。
トランプ大統領のマクファーランド元補佐官は、トランプ大統領は、中国によるコロナ感染の情報隠蔽やその後の影響力拡大のための活動を見て、習近平・中国は信頼できず許せないと考えるだろう。そして、今後中国を抑え込むためには、食糧・資源・軍事力・製薬・テクノロジーが重要となるだろうと発言した(月刊Hanada6月号参照)。
そして、元高官は、米国はすでに食料・資源・軍事力で自給自足・自立しており、中国を外したサプライチェーンを実現できるとし、今後の課題として、製薬と5Gなどの情報通信のテクノロジーを挙げた。その分野でも米国は自立・自給自足を高めるだろうと言うのである。
中国を外したサプライチェーンは、第一次世界大戦後の大恐慌を境に、各国がグローバルな貿易ネットワークを否定し、自分たちの地域経済に閉じこもったブロック経済と似ているかもしれない。
また、製薬とは、中国はマスクを含めた医薬品製造で最大のシェアを持っており、米国も中国に抗生物質の製造などを大きく依存している。この中国依存の脱却を図ることに加えて、今回の新型コロナウイルスのワクチンに関して、中国を含めた世界に先駆けて開発して主導権を握ることだろう。
実際に、少し前に、中国主要紙が「中国は医薬品の輸出を規制することも可能であり、その時は米国はコロナウイルス地獄に沈むだろう」と報じた。米国の議員が「これでは中国と戦うことは難しくなる」と危機感を表明している(そもそも何ら戦うことが必要な状況が生じないならば、それが一番よいことではあるが)。こうして、医薬品は戦略物質であり、安全保障問題につながるのである。
5Gなどの情報通信技術については、現在中国がリードしているといわれるが、インターネット技術は感染症問題などで、生身の人間同士の接触のリスクが意識されて、テレワークなどのインターネット活用が加速する中で、ますます重要な技術分野となるだろう。これについて、安全保障の観点からも、中国の覇権を許さないということだろう。
ここで重要な視点は、新型コロナウイルスの大きなショックに絡んだ21世紀の大国間の覇権争いは、20世紀の米ソ冷戦と違って、核軍事力によってではなく、重要分野の技術力・経済力が決める部分が大きいということだろう。核軍事力に関しては、核兵器自体が使用すれば共倒れになるもので、実際に使えるものではない。そして、その国の経済力が、新兵器の開発などの将来の軍事力を決める重要な要素であることに疑いはない。
経済面で言えば、今回の新型コロナウイルス感染に関して、早期に収束させて経済活動を再開させようとしている中国に対して、米国は、中国より相当に大きな被害を受け、未だ終息が見えていない状況である。これに対して、米国は、新型コロナ感染の拡大の責任が中国にあるとして巨額の損害賠償を求めようとしている。自国の被害を賠償請求でカバーし、賠償負担を背負わせることで、中国の台頭を抑制しようという狙いがあるのだろう。
さらに、米国は、第二次大戦の原爆開発「マンハッタン計画」になぞらえて、官民総動員の態勢で、「オペレーション・ワープ・スピード(超高速作戦)」と銘打ち、新型コロナウイルスのワクチン開発を猛スピードで進めようとしている。
ワクチンを開発した国こそが、膨大な利益を得ることになるとともに、そのワクチンの提供先・提供の優先順位を選択できるから、安全保障上の鍵をも握ることになるからだろう。ワクチンがない国では、医療・経済に限らず軍事を含めて、あらゆる活動に支障をきたす状況が始まっているのだ。
また、各国の国威・イメージに関しても、そのワクチン開発を世界に先駆けて成功した国こそが、今の時代をリードするものだというイメージができるのではないだろうか。これは今後の21世紀において、どの主要国に対して、途上国・新興国を含めた世界全体が追随しよう(したい)と思うかに関わる。米中の同盟国の形成に影響を与えるのである。
さて、ウイルスとの戦いでも、先の世界大戦でも、米国は参戦が遅く、初戦に弱いというジンクスがあるのかもしれない(例えば真珠湾攻撃)。今回も初動が遅れて、今のところ早期に感染拡大を終息させた(と見える)中国に対して、後れを取っている現状がある。
しかし、これまた先の世界大戦のように、米国は、いったんギアが入ると、その巻き返す底力は非常に強力であり、依然として世界最強ではないかというのが、今のところは衆目の一致するところだろう。しかし、今回のコロナ問題の結果は、まだ完全には見えていないし、何がどうなるかわからない面もある。
そうした中で、中国は、コロナ感染拡大の経過の検証や賠償請求の問題、ウイルス感染予防の技術開発、従前からの貿易問題などに関して、米国と様々に対立して争っていくのだろうか。それとも米国の底力が自国を上回ることを認めて、よく自重して米国と協調していく路線をとるのだろうか。
合理的には勝つ見通しのない争いに、下手な面子・プライドのあまり突入するならば、大規模紛争にはならないにしても、経済分野などにおいて、中国が先の大戦で英米に敗北した日独伊の二の舞のような、大きな打撃を受ける事態になることはないだろうか。
歴史が全く同じように繰り返すことはないだろうが、形を変えながらも、似たような現象が繰り返すことはある。そして、特に歴史から学ばぬ場合には、歴史を繰り返すとされている。
12.宗教も歴史を繰り返すか宗教の原点には、多くの場合、病を癒す伝説がある。イエスも仏陀も。感染症患者を恐れず、神通力で癒すその勇気と力。しかし、開祖の偉業はいざ知らず、その後の人類の歴史を見れば、パンデミックは、宗教を大きく変えてきた事実に気づく必要がある。今、瀬戸際にあるのは、旅行業界や航空業界や百貨店だけではない。宗教こそが瀬戸際にあるのかもしれないと思う。
14世紀の欧州でのペスト大流行の際、カトリック教会は無力で、その権威が弱まった。それが後に、教会支配から絶対王政の時代に移る一因となったという。今回も宗教は、コロナ・パンデミックに無力なばかりか、一部は盲信によって感染を助長して有害でさえあるとのイメージが広がっている。
ウイルスは絶えず進化する。ならば宗教も21世紀の科学時代に、今こそ適応して進化しなければならないだろう。ダーウィンの進化論(適者生存)を盲信するのは嫌いだが、地球と人類の歴史を見るならば、生き残る者は、恐竜のように大きい者ではなく、変化に適応する者だ。今大教団だからといって、次の時代に生き残るとは限らない。
その意味で、宗教は自分を甘やかし堕落させる感染症に関する三つの悪癖を直ちにやめて、真剣に努力をすべきだ。
(1)信仰すれば感染しないとの盲説
(2)敵対者の感染は天罰だとの盲説
(3)自分の感染は悪魔(敵)の仕業(陰謀)との盲説いくら「自分の信じる神は唯一絶対」とはいっても、教団・信者は、不完全な人間の集団である以上、甘えず、自己を客観視して努力してこそ未来がある。宗教も例外ではないはずである。
なお、私個人は、今回の現象は、ペストやスペイン風邪のような文字通りのパンデミックだとは思っていない。現代社会の矛盾を焙り出す人災の面や、感染症をきっかけにした精神的なパニック・経済停滞の側面があると考えている。
そして、本来の宗教は、特に仏教はそうであるが、科学技術では直ちに解決できない災厄が訪れた際に、人の心の動揺・パニックを静めるために役立たなければならない。
13.感染症ではなく、心の問題による死亡者が多数発生する可能性人々の健康・命を守るための新型コロナ感染の拡大抑止の規制も、その健康・命を守るという目的のために、全体的・総合的な視点からバランスをとる必要があると思う。わかりやすく言えば、外出等の活動規制が行きすぎれば、感染はしなくても、別の原因で人は病んだり、死んだりする。
そのパターンは実にさまざまであるが、多くの場合、精神的な問題が関わってくる。そう、今こそ、感染症という物理的問題による病気や死に加えて、精神的問題による病気や死に対して、真剣に注意・計画をしなければならない時である。
第一に、経済活動の停止による失業者の増大は、自殺者の増加につながることである。失業者と自殺者の相関関係の背景には、失業のために食べていけないとか、多額の借金が返せなくなった(という不安)など経済的な理由もあれば、給付金などだけではカバーできない仕事を失うことによる自尊感情・自己価値の喪失・将来不安といった精神的な理由もあると思う。
なお、自分の意志で命を絶つ自殺と、否応なく感染で死亡する場合を同じ損失と考えて、単純にその数を比較して判断することには、違和感がある人もいるかもしれない。ただし、心理学的には、自殺は、自由意志でなされるものではなく、その直前は鬱病的な状態であって、正常な判断ができない中でなされるものだとも聞く。また、感染で死亡する人は、退職した高齢者が多いが、こうした場合、自殺するのは30~40代の現役世代であり、経済・社会への悪影響はより大きい可能性もある。
実際に、ここ数十年の過去の統計で見ると、失業率が1%増大すると、経済的理由による自殺者が数千人増えるという相関関係があるという分析もある。仮に、これが正しいとして、今の勢いで失業率が10%以上増えるならば、自殺者が数万人も増えることになる。今やリーマンショックを超えた大不況ともいわれるから、自殺者の増大も大きいだろう(現在の年間自殺者は2万人台、以前は4万人台の時も)。
すでに米国のテネシー州のある群では、都市封鎖後に、コロナ感染死以上の者が自殺したことや、英国の都市封鎖後に、コロナ感染死以外の死亡者が急増して、社会にショックを与えていることが報道されている。なお、今後の問題として、都市封鎖・失業などで、普段からの預貯金が少なく、消費傾向が強い米国を中心に、債務の不履行・生活資金が底を尽き、失業のために健康保険を失うといった人たちが膨大な数に上る可能性もあるという。
第二に、未婚者の増大や高齢化社会のために単身者が増大している中で、外出自粛をするならば、社会的な隔離と孤独という問題が発生、または悪化する。
これは、死亡者を増大させる作用を持つ。例えば、孤独死の問題(現在年間3万人ともいわれる)を増大させる。また、様々な心身の疾患リスクを高めることが知られている。結果として、生活習慣病などの病気と同じように、ないしはそれ以上に生存率を減少させることは、2000年代になって広く研究され、その弊害の深刻さがよく知られるようになった。すなわち、孤独状態に陥ることは、心・身の病気に直結するのである。
第三に、通勤・登校・外出自粛の中で、仕事や学業の将来に多大な不安を抱えた者同士が、家庭内で接するために、家庭内暴力の増大が懸念される。そして現在、実際に恐ろしいほど増えているとWHOが警告している。さらに、当然だが、不況になれば、窃盗犯・強盗犯、その他の暴力犯罪も増大するだろう。
第四に、外出の自粛などが逆に免疫を低下させ、感染リスクを高める恐れがあることがある。様々なストレスの結果として、睡眠不足の問題、バランスの取れた食事ができなくなる問題があれば、それが免疫力の低下を招く。また、外出せずに家に籠ってばかりいて運動不足になれば、免疫が低下して逆に感染しやすくなる恐れもある(ただし、免疫を高めるには、激しすぎる運動は逆効果で、低強度の運動がよい)。また、日光を浴びなければ、免疫を助けるビタミンDが不足する可能性があるという。
こうして、ある目的(例えば治療・救命)のため政策が、その意図に反して、その目的に反するような副作用・弊害をもたらすことはよくある。これは現代社会に限らず、物事には複雑な因果関係があるからだ。Multiple causalityなどといわれるが、これは仏教の思想において因縁生起といわれるものと同じである。ある現象の原因を探ると、何か一つの原因があるのではなく、多数・無数の原因・関連性が存在し、複雑な因果関係によって現象が生じているということである。
実際に、都市封鎖なしのスウェーデンが、厳格な都市封鎖をしている英国よりも、英国の都市封鎖をして以降の状況で比較して見ると、死亡者数に関しては、逆に良い状況であり、感染者数でも大きな違いがないという状況が報道された。
こうして、感染症拡大抑止のための行動規制には、こうした複雑多数の弊害がある以上、今後の方向性として、医療崩壊を避ける努力をしながらも、活動規制による救命と活動規制による生命の損失の双方を比較考量して、総合的でバランスの取れた政策決定をする必要があるだろう。いわゆるコスト(リスク)ベネフィット・アナリシスと呼ばれているものである。
14.今求められる苦境における心身の健康と安定の智恵
しかも、今の状況では、コロナ感染問題は、長期戦になることが確実である。都市封鎖は、時が経つとともに、その弊害がより大きくなってくるだろう。ハーバード大学は、ワクチン治療薬の開発で短縮できるとしながらも、断続的な外出自粛が2022年まで必要としている。IPS細胞でノーベル賞を受賞した山中教授も、最低1年は我慢が必要だと指摘している。
第1章でも指摘したが、その理由としては、
①現在まだワクチンも治療薬もなく、その開発に1年はかかるとみられること、
②インフルエンザと違って、暖かくなれば収まる季節性ではなく、仮にそうだったとすれば冬季に再発すること、
③集団免疫には、人口の6割の感染が必要とされるが、医療崩壊を起こさない程度にゆっくりと実現しなければならないこと、
④一度感染した人がどの程度の免疫を形成できるかは、依然として不明であること、
⑤経済の年内のV字回復の期待は大きくなく、自粛も慎重に段階的に解いていくことになる可能性が高い。
こうして見ると、この状況の中で、1人1人が、総合的な視点で、自分の心身の健康をいかに保つ工夫をするかということが重要だと思う。未曽有の状況の中で、誰もが政策として何が正しいかはわからない。その意味でも、そもそも政府の政策ばかりには頼れない。
そして、前章で述べたように、感染症に対する免疫力も、単に物理的・身体的な条件(3密の回避・消毒洗浄・食生活・運動・睡眠)だけではなく、精神的な安定・肯定的な感情の有無が大きな影響を及ぼすことがわかっている。実際に、精神的なストレスは、免疫力を弱めるという研究結果が報告されている。例えば、精神の不安定は、感染細胞を死滅する役割をもつNK細胞を不活性化するという。
そのためには、心身の健康の双方に役立つ、ヨーガ・仏教の体操・呼吸法・瞑想は、非常に役に立つと思う ヨーガは、そもそも「心の制御」という意味である。
そして、長期戦であるということは、長期的な行動変容、強く言えば、ライフスタイル・生活様式の変更=進化を考えなければならないだろう。元に戻るのを待つのではなく、もう元には戻らない状況を受け入れて、さらには、それを逆に活用して、新しい時代・現実に向かって、進歩的に前向きに、自分の方を変えていくことである。
これと関連して、苦境の中にあって、いかに心を安定させながら前向きに生きていくかという仏教的な智恵が、非常に重要になってくるだろう。これは、苦しみを喜びにする智慧であり、悟りや慈悲に深く関係する。心の制御・安定を目的として、連綿と探求されてきた仏教やヨーガの思想と実践を、役立てるべき時だと思う。
15 途上国:最大の被害はやはり弱者に
そして、将来的にではあるが、感染拡大を抑止するための都市封鎖や、様々な活動規制によって損なわれた様々な生産活動は、世界の食糧生産の大幅な減少を招くことが懸念されている。生産が減少して、食糧価格が高騰すれば、途上国を中心として食糧が欠乏して、飢餓人口が大幅に増大する恐れがある。これは、既にWHOやFAOといった国際機関が警告を発している。また、感染症の問題に関していえば、新型コロナウイルスが欧米先進国を中心として20万人の死亡者を出しているのに対して、例えば、結核では、途上国を中心に毎年150万人が死亡している(日本では2000人強だが、日本は多い方で、他の先進国ではより少ないところが少なくないという)。HIV・エイズも、途上国を中心に毎年約100万人の死亡者を出している。
また、これはあまり言いたくはないが、先進国の経済規制によって、食糧生産が落ち込んだ結果、途上国を中心に人命の損失が生じたとしても、同じ生命の損失と考えられるだろうか。現在の先進国の世論・価値観では、それが自分の国の感染死亡者と同じ価値の損失であるとは考えないだろう(考えられないだろう)。これが、先進国に比較して、途上国の人命が安いともいわれる所以である。
16.第二次大戦を招いた100年前と似た三つの要素歴史を繰り返さないために歴史から学ぶという話に戻れば、現在すでに、第二次世界大戦を招いたと考えられる三つの重要な要素が存在していると思う。
まず、第二次大戦の前の第一次大戦の際に、それと同時にスペイン風邪のパンデミックが起こり、各国が経済的に大打撃を受けていた。これも一因となって、敗戦国のドイツに巨額の賠償を強いたのである。そして、現在の世界規模の深刻な経済の停滞は、たびたび大恐慌以来と言われることになった。そうすると、以下の少なくとも3点の類似性があるのではないだろうか。
①世界的な感染症:スペイン風邪・新型コロナウイルス
新型コロナウイルスは、スペイン風邪ほどではないが、経済的な打撃は相当なものとなりそう。②新興国への巨額賠償問題:ドイツ・中国
政治体制に関して言えば、ナチス・ドイツのユダヤ人弾圧と、中国のチベット・ウイグル弾圧などに類似性を感じる。③世界的な大不況:大恐慌・コロナ感染の大不況
※ただし現在の不況が長期化した場合に類似性が強まる。②の賠償問題に関しては、中国は責任を絶対に認めないだろう。その場合はどうやって支払わせるか。一案として、米国では、中国が買った米国債(100兆円以上)を返済しないことが検討されているという。しかし、トランプ大統領は、米国債はドルの価値・信任を低下させる恐れがあるため、中国からの輸入品への追加関税を主張しているという。また、中国共産党幹部の巨額の隠し資産を差し押さえる手もあるという。欧米の税務当局や情報機関が協力すれば可能だろう。
しかし、歴史から学べば、こうしたことをやりすぎるならば、中国による安全保障上の問題も起こるかもしれない。米国などの他国との対立が激しくなれば、当然中国内部の体制も揺らぐ可能性があるという。周主席の側近が、主席から距離を置き始めたとか、中国の若者が共産党体制に疑問を持ち始めたという情報もある。そして、その後に出てくる中国の新体制が、国際協調的なものになるという保証はない。100年前に、巨額の賠償を強いられたドイツの場合は、それを背景としてナチスが台頭したという歴史があり、第二次大戦後には、欧州の重大な反省課題となったことはよく知られている。
17.目先の対応策の陰に隠れる根本的な解決の道最後に、新型コロナウイルスの問題解決において、当面の対策の陰に隠れて、より根本的な解決のための長期的な対策は、見落とされがちのように思う。例えば、感染源を回避するために、外出や事業活動を停止することも、一時的な対策だと思う。活動の停止は経済を損なうし、失業やその他の理由で死者を生み、永遠にできることではない。
さらに、感染の回避のために、他人・他の国民との接触を回避する中で、国内外の分断・対立が生じやすくなっている。しかし、コロナのような新興感染症の発生の根本原因である無秩序な自然開発を防ぐためには、皆が自分だけの利益に走らずに、協力し合うことが必要である。さもなければ、何度も似た問題が起こりかねない。今回のウイルスは、SARSやMERSを含めて、7種類目のコロナウイルスである。専門家でなくても、8度目、9度目があると考えるべきことはわかる。
この長期的な視点からは、根本的な解決といわれる新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発でさえ、大局的に見れば根本的な解決にはならない。ウイルスは絶えず変異する可能性があるからである。今回開発した薬も、いずれは無効になる。また、新型肺炎ではないが、肺結核の治療に用いる抗生物質も、薬剤耐性菌と呼ばれる、抗生物質では殺せない菌が出てきてしまい、すでに治療成功率が低下してきている。国内で年間1万5千人が感染し、2000人以上が死亡、世界では1000万人以上が感染し、150万人が死亡している。こうしてみると、新型コロナウイルスの感染者・死者の方がまだ少ない。
そして、感染症と同じように国家間の協力が必要であって、破局的な危機をもたらす可能性があるのが、温暖化の問題である。ところが、今回の景気後退の恐れから、米国は経済的負担が大きい一部の環境保護政策を緩めようとしているという報道もある。
よって、人類社会自体も、新しい時代に適応・進化しなければならない時代になったと思う。今回の感染症問題の原因である世界中での無秩序な自然開発・経済活動・過剰な金銭主義・消費主義を、見直す必要もあるだろう。国際化する問題に対処するための、強力な国際機関も必要だろう。そうしなければ、さらに新しい感染症が将来に持続的に現れたり、それ以上の問題を潜在的にはらんでいる温暖化の問題も激化したりしていくことになるのだろう。
それから、少々話のスケールが小さくなるが、よく推奨されている消毒剤による手の消毒も、行きすぎれば、善玉菌まで殺してしまうので、結果として免疫を弱める面があると主張する専門家もいる。善玉菌がいなくなって悪玉菌が付着すると、よりはびこりやすいという。そうした専門家は、手洗いに消毒剤を使わない方がよいという。もちろん、これには議論があるだろうし、医学的な調査・研究を待つ必要がある。
しかし、うがいに限って言えば、うがい薬(イソジンなどのヨードを使ったもの)を使ったうがいと、単なる水のうがいを比較した調査研究の結果では、うがい薬の殺菌力が強すぎて善玉菌まで殺すために、水のうがいの場合の方が、感染症の罹患率が少なかったという。だとすれば、便利そうな薬品に安易に頼ってばかりいてはならず、普段から、自分自身の免疫力の向上に役立つ健康的な生活習慣を身に着けるということが、本質的な解決、王道であるということではないだろうか。
この問題は根本的解決をせず、目先の対応だけで対処しきれるものではないと思う。今回の問題は、まだ「喉もと」を過ぎてさえいないから、気が早いかもしれないが、今回の問題こそ「喉もと過ぎれば」にはならないようにする必要があると思う。
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