米国務省による評価と決定
(2022年8月29日)
すでにお知らせの通り、2022年5月20日、米国の国務省(以下「米国務省」と記します)は、オウム真理教について「テロ活動の能力や意思を保持していない」として、1997年以来25年間にわたって続けてきた「外国テロ組織(FTO)」指定を解除しました。
そして、「日本などがテロの脅威の排除に成功したことを示すものだ」という見解も発表しており、これは、ひかりの輪はオウム真理教と同一であるとして観察処分の必要性を認める公安調査庁の見方を否定するものとなっています。
現に、公安調査庁自身も、米国務省の指定解除の直後(2022年6月28日)に、米国務省の見解を追認するかのような公表を行っています。
ひかりの輪はオウム真理教(現アレフ)から脱退したメンバーが設立し、徹底的な「脱オウム」「反オウム」を続けてきましたから、もとよりオウム真理教と同一ではありません。しかし、百歩譲って、仮に、オウム真理教と同一だとする公安調査庁の主張に沿ったとしても、ひかりの輪には観察処分を適用しなければならないような危険性はないと米国務省は認めているのであって、公安調査庁も事実上、そう追認せざるを得ない状況になっているのです。
その詳細について、以下にご説明します。
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目 次
1,米国務省によるオウム真理教に対する「外国テロ組織(FTO)」指定解除の詳細
2,米国務省の判断が公安調査庁より信用性があること
(1)米国が世界最強の情報機関を有していること
(2)米国の情報機関が公安調査庁より高度な情報収集力を有していること
(3)米国の情報機関が公安調査庁より高度な情報分析力を有していること
(4)米国の情報機関の判断は、公安調査庁から提供されたオウム情報にも基づいていること
(5)米国務省は政治的判断をする必要がなく、判断基準が厳格であること
(6)この項のまとめ
3,米国務省が5年ごとの最新状況を反映した判断をしているのに対して、公安調査庁や公安審査委員会は3年ごとの最新状況(麻原の死刑執行)を反映した判断を全くしていないこと
(1)米国務省の判断は、2018年の麻原の刑死を反映したと思われること
(2)麻原の刑死後は、無差別大量殺人行為は絶対に起こりえない状況になったこと
(3)殺人などの違法行為をオウム真理教信者に指示できる権能を持っていたのは、ただ一人麻原のみであったこと
(4)公安調査庁や公安審査委員会は3年ごとの最新状況(麻原の死刑執行)を反映した判断を全くしていないこと
4 実は公安調査庁自身もひかりの輪に観察処分適用要件が存在しないと内心では認めている節があること
(1)米国務省の判断を事実上追認する記載をしていること
(2)『国際テロリズム要覧 2022』では、オウム真理教の「政治上の主義」を削除していること
(3)麻原刑死前の2016年当時から、公安調査庁内部では、ひかりの輪への観察処分の継続は無理との雰囲気が支配的になっていたこと
(4)米国務省の指定解除の判断の根拠に、公安調査庁の見解があると思われること
5,国際基準から大きく乖離した観察処分は取り消されるべきこと
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1,米国務省によるオウム真理教に対する「外国テロ組織(FTO)」指定解除の詳細
前記の通り、米国務省は、1997年以来25年間にわたって続けてきたオウム真理教に対する「外国テロ組織(FTO)」の指定を、2022年5月20日に解除しました(※①NHK報道、②毎日新聞報道、③時事通信報道、④米国務省発表原文〈英文〉、⑤発表原文の和訳)。
「外国テロ組織(FTO)」とは、1996年に発生した米国・オクラホマシティ連邦政府ビル爆破テロ事件などを受けて制定された「1996年反テロリズム及び効果的死刑法」に基づき指定されるようになったものです(その後、法改正を経て、現在は移民国籍法に基づいて指定されています)。
同法は、①国務長官が「外国テロ組織(FTO)」を指定すること、②「外国テロ組織(FTO)」に指定された組織の代表者、構成員を入国拒否の対象とすること、③「外国テロ組織(FTO)」に指定された組織に対する物的支援行為を犯罪化すること等を規定しています。
「外国テロ組織(FTO)」に指定するためには、
①当該組織が外国の組織であること、
②当該組織がテロ活動に従事していること、またはテロ活動に従事する能力及び意志を有していること、
③当該組織のテロ活動が米国民の安全又は米国の安全保障を脅かしていること、
の3要件を満たす必要があります(※以上、公安調査庁『国際テロリズム要覧 2013』のp276より)。
今回オウム真理教が指定解除された理由としては、「もはやテロ活動に従事しておらず、その能力や意思も保持していない」ことが挙げられています。すなわち上記3要件のうち、少なくとも2番目の要件が該当しないとされたのです。
そして、「日本(など)が(これらの)グループによるテロの脅威を取り除くことに成功したことを示すものだ」と米国務省は説明しています。
今回の決定は、5年ごとに状況の変化に応じて指定を見直す同国の法制度に基づくものですが、これに関して、米国務省は、「指定の解除は我々のテロ制裁が最新の(状況を反映した)ものであり、信頼できるものであり続けることを確保するもの」としています。
そもそもひかりの輪は、オウム真理教とは全く異なるものですが、百歩譲って仮に公安調査庁の主張(ひかりの輪はオウム真理教の一部を構成するという主張)に沿ったとしても、ひかりの輪が米国務省によって外国テロ組織から指定解除されたことは明らかだといえます。
2,米国務省の判断が公安調査庁より信用性があること
(1)米国が世界最強の情報機関を有していること
長らく「世界の警察官」を自任してきた超大国・米国は、その政策の基盤となる国内外の情報の収集・分析のために、世界的に有名なCIA(中央情報局)を中心とした世界最強の情報機関を有してきました。それは、警察政策学会のテロ・安保問題研究部会の刊行物『米国国家安全保障庁の実態研究』によれば、以下の通りです。
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米国は、世界最強のインテリジェンス国家である。国家諜報長官DNI を中心に、中央諜報庁CIA、国家安全保障庁NSA、国家地理空間諜報庁NGA、国家偵察局NRO、国防諜報庁DIA、陸海空軍・海兵隊の各軍諜報諸機関、連邦捜査局FBI 諜報部門を中核とする17の諜報組織が強力な諜報コミュニティを形成し、世界最強の米国を支えている。世界最強の米軍も、単に優れた兵器・兵站・指揮能力のみではなく、その諜報力に支えられている。米国の外交力も、(他国の国家外交機密の取得を含む)諜報力に支えられている。米国のテロ対策も、その諜報力に支えられている。その経済力にも、諜報力の恩恵が及んでいる。
これらの諜報システムの構築運営のため、米国は長期に亘り膨大な費用と最高の人材を注ぎ込んできた。現在でも、例えば2014会計年度の連邦政府の全諜報予算は708億ドルで、邦貨に換算すれば8兆円以上の巨費を投じている。また、2009年9月の国家諜報長官の発言によれば、インテリジェンスに従事する職員数は約20万人であるという。(※同書「まえがき」より)
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上記の国家情報長官(国家諜報長官)は2004年に新設されたものですが、オウム真理教への観察処分が開始された2000年当時から、米国では各情報機関を統括・調整するインテリジェンス・コミュニティーが形成されており、そこには、CIAをはじめとして、今回オウム真理教の「外国テロ組織(FTO)」指定を解除した国務省(United States Department of State)も含まれています。そして、実際に国務省とCIAの間でも情報のやり取りが行われています。
(2)米国の情報機関が公安調査庁より高度な情報収集力を有していること
上記の通りの巨大な人的・物的資源を投じた「世界最強のインテリジェンス国家」である米国の情報機関の規模は、当然に世界最大であり、詳細は後述しますが、CIAから継続的に研修を受けている日本の公安調査庁の職員も、「(公安調査官は)CIAという世界最大の情報機関を前に、日本政府の一員として恥をかかぬよう過度に緊張している」というほどです(元公安調査官・野田敬生氏著『CIAスパイ研修』〈現代書館〉のp190より)。
そして、その情報収集力も世界最高レベルであり、公安調査庁をはるかに上回るものであることは、いうまでもありません。それは、警察政策学会のテロ・安保問題研究部会の刊行物『テロ対策に見る我が国の課題』によれば、以下の通りです。
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(前略)我が国のテロ対策における情報収集力は、決して高くないことを見てきた。
ところで筆者は、前世紀において国際テロ対策に従事して欧米諸国のテロ対策諸組織と遣り取りをした経験がある。その際に痛感したのは、欧米諸国と我が国の間の情報収集力に格段の差があるということであった。欧米の諸機関と遣り取りしていると、「何故ここまで知っているのか」と感心する経験が度々あった。つまり、欧米諸機関の情報収集力の方が格段に強力だったのである。
情報収集力に格差が生じる理由は、情報収集手法・手段の違いである。(※同書のp14より)
(中略)
(2)欧米の情報収集手法
欧米諸機関の情報収集手法は多彩であり格段に強力である。欧米諸国でも、我が国同様に。行動確認(尾行張込)、協力者運用、事件捜査権限も活用するが、寧ろ、「技術能力」(technical capabilities)と呼ぶ通信傍受、信書開披、或いは容疑者宅等の秘密捜索やマイク設置などを多用している。また、「ヒューミント」ではテロ容疑集団への潜入調査や囮調査を実施している。(※同書のp15より)
(中略)
3 米国:2016 年国防総省諜報活動実施手続
米国における情報収集手法の全体像が分かる文書としては、2016年改訂の「国防総省諜報活動実施手続」マニュアルDoD Manual 5240.01 Procedures Governing theConduct of DoD Intelligence Activitiesがある。
本マニュアルは、国防総省傘下のインテリジェンス組織の活動手続であるが、大統領命令12333号「米国諜報活動」に基づき、国家諜報長官と協議の上、国防長官と司法長官の同意を得て制定されている。国防総省系の諜報組織のための基本マニュアルであって、CIA やFBI 国家安全保障局には適用されないが、情報収集手法についてはCIA やFBI についても同様であると考えられる。(中略)本マニュアルに規定されている情報収集手法は、電子的監視、秘匿監視、物理的捜索、郵便検閲、物理的監視、身分偽変の六つであり、それぞれの手法について見ていく。(※同書のp17より)
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このように、米国情報機関の情報収集力は、日本とはケタ違いであることが明らかです(※その他、同書のp60~62の図を参照のこと)。
その違いは、日本では法制化されていない情報収集手法・手段を有していることのみに起因しているのではなく、公然情報の収集態勢の違いからも生じているといえます。具体的には、CIAは、たとえば日本国内で出版されたCIAに関する出版物については、出版されるやいなや直ちに全訳してその内容を把握したりしています。またFBI(連邦捜査局)も、公安調査庁に依頼して連合赤軍幹部の著作の入手を依頼する等しています。
こうした米国情報機関の日本国内での情報収集について、公安調査庁で米国情報機関とのやりとりを担当していた元公安調査官の野田敬生氏は、「日本を見ると、たとえ公然資料程度ではあっても、公安庁はここまで海外動向を貪欲に把握しようとしていないし、する能力がない。彼我の機関の力量には歴然たる差があるのである」(※前掲野田氏書のp53~54より)、「公安調査庁の治安・情報機関としての実力は、極めて低いレベルにとどまっている」(※同書のp168より)と述べ、米国情報機関の情報収集能力が公安調査庁をはるかに凌駕していることを認めています。
(3)米国の情報機関が公安調査庁より高度な情報分析力を有していること
情報「収集」力のみならず情報「分析」力についても、米国情報機関が公安調査庁を上回っていることを示す事実があります。
というのも、公安調査庁は1993年以降、同庁からの申し入れにより、同庁職員をCIAに派遣して、CIAによる情報分析研修を受け続けているのです。その経費はすべて公安調査庁側が負担しています(※前掲野田氏書のp151~153より)。
このCIA情報分析研修を1998年に受けた公安調査官の一人が、前出の野田氏であり、野田氏はその詳細を著書『CIAスパイ研修--ある公安調査官の体験記』(現代書館)に記しています。
なお、1998年、野田氏を含む7名の公安調査官が、CIAに派遣されて情報分析研修を受けていますが、その中には、後にひかりの輪の外部監査委員を務め、ひかりの輪には観察処分適用要件がない旨の陳述書を提出したC氏も含まれています。C氏のことは、野田氏の前掲書の随所にも記されているのですが、詳細は後述します。
CIA情報分析研修の内容自体は、前掲野田氏書の第2章(p105~150)に記されている通りですが、こうした情報分析研修に、公安調査庁からの申入れで、同庁の経費負担によって、毎年同庁職員が派遣され学び続けてきたのであり、その数は、野田氏によれば、2000年当時であっても、本庁の職員の1割に近くにも及んだということです(※同書のp156より)。このこと自体、CIAの情報分析力が公安調査庁を上回っていることを、同庁自身が認めていることを物語っており、この点においても同庁がCIAに「師事」しているといっても過言ではないことが明らかです。
(4)米国の情報機関の判断は、公安調査庁から提供されたオウム情報にも基づいていること
このように、公安調査庁を凌駕する情報収集・分析能力を有する米国の情報機関なのですが、今回のオウム真理教の「外国テロ組織(FTO)」指定解除の判断に際しては、公安調査庁から提供され続けてきたオウム真理教関連情報も参考にしていると考えられるのです。
現に、CIAは公安調査庁と定期的に情報交換を行ってきました。野田氏が述べるところによれば、「外国機関との間で定期的に開催される情報連絡会議は、『協議会』と公安庁では呼ばれている。CIAとの協議会が最も大きな比重を占めていることは言うまでもない」ということです(※前掲野田氏書のp158より)。そして、野田氏が所属していた近畿公安調査局においても、CIAとの間でオウム真理教の現況をテーマとした「協議会」が開かれ、現にCIAからオウム事件調査の要請を受けた同庁は、調査してCIAに報告書を提出したというのです(※同書のp164~166より)。
また、1998年に野田氏やC氏の米国でのCIA情報分析研修をアテンドしたCIA駐日渉外連絡官も、野田氏に対して、「公式見解でもあり、個人の意見でもある」と前置きした上で、次のように述べたということです。
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我々は現在もオウム問題について多大な関心を寄せている。オウム以外でも、たとえば北朝鮮の問題でPSIA(※公安調査庁のこと)には世話になっている。これらの問題で、最も情報提供が多いのはPSIAである。(中略)PSIAが非常に頼りになっている点は、照会すれば必ず何がしかの回答をしてくれることである。(中略)PSIAはその回答が誠意ある点で評価できる。(※前掲野田氏書のp33より)
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こうした事実を踏まえて野田氏が「公安庁は、CIAに協力的であるとも言える」(※同書のp168より)と述べているように、オウム問題に多大な関心を寄せ続けてきたCIA等の米国情報機関は、「協力的」な公安調査庁から、オウム真理教に関する情報の提供を受け続けてきた事実があり、それらの情報も今回の「外国テロ組織(FTO)」指定解除の判断の根拠としたことは明らかだと考えられます。
(5)米国務省は政治的判断をする必要がなく、判断基準が厳格であること
加えて、米国務省の判断は、法と事実のみに基づいており、自らの組織の維持や国民感情への配慮等の、いわゆる政治的判断とは無縁で、公正中立という意味でも、公安調査庁・公安審査委員会の判断よりも信頼性があります。それは、米国務省発表文(※英文・和文)の以下の箇所に、如実に表れているといえます。
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これらの措置は、事実がそのような措置を義務付ける場合に、FTO指定を再検討および取り消すという法的義務を遵守するという合衆国の決意を反映することを意図しています。これらの取消は、これらのグループのそれぞれが以前に行ったテロ行為や組織が犠牲者にもたらした危害を見逃したり、正当化するものではなく、むしろエジプト、イスラエル、日本、スペインが、テロの脅威を取り除くことにおいて成功したことを認めるものです。
これらのグループのFTOの指定の取り消しや死亡した個人の指定解除は、我々のテロ制裁が、最新かつ信頼できるものであり続けることを確保するものであり、これらのテロリストまたは彼らが所属していた組織の過去の活動に対する政策の変更を反映するものではありません。 ---------------------------------------------------------------------------
一方、公安調査庁の場合、同庁の所管法令に基づく処分を行っている対象はオウム真理教のみであり、オウム真理教への処分の有無は、長年リストラが取り沙汰されてきた同庁の存立の可否に直接関わってくるものなのです。
すなわち公安調査庁は、かつて全国各道府県にあった43地方事務所を14に縮小し、約1700名いた人員を約1500名にまで削減するなど、長期的に見れば、明らかにリストラ対象の組織です。東西冷戦の終結、共産主義運動の退潮などで、その存在意義を大きく失っていたところを、オウム事件によって息を吹き返したといわれており、ほとんど唯一オウム真理教を存立基盤とする官庁といっても過言ではないとされています。
現に、公安調査庁の公式サイトの「報道・広報」のコーナー(公安調査庁の活動を広報するコーナー)は、大部分がひかりの輪とアレフに対する立入検査の結果報告で占められています。その他も、オウム真理教関連の情報が大部分を占めると言ってもよい状況であり、つまるところ、公安調査庁は、オウム真理教関連の仕事しか対外的にアピールできる仕事がないといえます。オウム真理教の仕事をしなければ巨額の予算が全くといっていいほど確保できない状況にあるのです。
それは、前出の野田氏も、別の著書(半田雄一郎名義で刊行)で、「本庁がオウムに"真剣"だったのは、治安機関としての責務からというよりは、やはり行革対応が理由だった」と述べているとおりです。また、公安調査官への取材を行ったジャーナリストも、取材を受けた調査官が、オウム真理教への団体規制を理由に「これで、ウチの会社も十年は大丈夫だよ」と述べたことを著書で紹介しています。
このような、ひかりの輪と、いわば利害関係にある立場の公安調査庁が、公正中立な調査・分析活動を行うことは困難といわざるをえません。
さらに国民感情などにも配慮せねばならないため、どうしても政治的判断が混入してくるのは避けられません。
しかし、米国務省の判断は、「法的義務を遵守するという合衆国の決意」を断固として表明するものであり、まさに「法律による行政」、法治主義の原理原則に極めて忠実に則ったものであるという点で、公安調査庁の判断よりも信頼が置けるものといえます。
(6)この項のまとめ
以上の通り、「世界の警察官」を自任してきた米国の世界最強の情報機関は、情報収集力・分析力の両面において公安調査庁を凌駕しており(現に公安調査庁もCIAに「師事」しているほどであり)、それらの情報機関の情報に基づく米国務省の判断は、最新の状況を反映していて、政治的判断が混入していない公正中立なものですから、公安調査庁の判断よりも、はるかに信頼性が高いことは明らかなのです。
3,米国務省が5年ごとの最新状況を反映した判断をしているのに対して、公安調査庁や公安審査委員会は3年ごとの最新状況(麻原の死刑執行)を反映した判断を全くしていないこと
(1)米国務省の判断は、2018年の麻原の刑死を反映したと思われること
今回の米国務省の判断で特記すべきは、それが5年ごとに行われる判断であり、最新の状況を反映したものだということです。それは、米国務省が、「これらの措置は、事実がそのような措置を義務付ける場合に、FTO指定を再検討および取り消すという法的義務を遵守するという合衆国の決意を反映することを意図しています」、「これらのグループのFTOの指定の取り消しや死亡した個人の指定解除は、我々のテロ制裁が、最新かつ信頼できるものであり続けることを確保するもの」と強調している通りです。
米国務省が、この5年の間に新たに生じた出来事の何をもって「最新」として、指定解除を行ったのかは明確にされていませんが、一部報道において、1998年に麻原の死刑が執行されたことが影響しているのではないかという推測がなされています。
ひかりの輪も、麻原の死刑執行が米国務省の判断に決定的な影響を与えたものと考えています。なぜならば、麻原がこの世に存在しない限り、団体規制法が発生を防ごうとしている「無差別大量殺人行為」など絶対に起こりようがないからです。その詳細は、以下のとおりです。
(2)麻原の刑死後は、無差別大量殺人行為は絶対に起こりえない状況になったこと
そもそも観察処分は、「無差別大量殺人行為に及ぶ危険性がある」団体に対して適用されるものですが(団体規制法第5条第1項第5号の規定による)、無差別大量殺人行為とは、破壊活動防止法第4条第1項第2号ヘに掲げる暴力主義的破壊活動、すなわち「政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、又はこれに反対する目的による殺人」であるとされています(団体規制法第4条第1項)。
つまり、単なる無差別の殺人というだけでは足りず、「政治上の主義」の存在が絶対に必須とされているのです。
もとよりひかりの輪は「政治上の主義」など有していないのですが、かねてから公安調査庁は、ひかりの輪はいわゆるオウム真理教の一部を構成しており、オウム真理教の政治上の主義は「現行憲法に基づく民主主義体制を廃し、麻原を独裁的主権者とする祭政一致の専制政治体制を我が国に樹立すること」(※公安調査庁『国際テロリズム要覧 2013』のp170より)と主張してきました。
ところが、麻原が刑死した2018年7月6日以降は(それはすなわち現在の観察処分が更新された当時=2021年1月当時でもありますが)、次の2点の理由により、無差別大量殺人行為は絶対に起こりえない状況になっていたといえるのです。
①麻原が存在しない以上、「麻原を独裁的主権者とする祭政一致の専制政治体制を我が国に樹立すること」など絶対不可能であり、このような「政治上の主義」は根底から消滅している。
②殺人などの違法行為をオウム真理教信者に指示できる権能を持っていたのは、ただ一人麻原のみであり、麻原が存在しない以上、殺人などの違法行為は生じようがない。
以上2点の理由のうち、1点目については自明であり、説明を要しませんので、2点目のみ以下に詳述します。
(3)殺人などの違法行為をオウム真理教信者に指示できる権能を持っていたのは、ただ一人麻原のみであったこと
ア ごく一握りの信者のみに明かされていたタントラ・ヴァジラヤーナの教義について
念のため、事前に一つご説明しておきますが、オウム真理教においては、その大部分の信者は、一般的な小乗仏教・大乗仏教の戒律を遵守し、人間はもちろんのこと、蚊やゴキブリ等の虫ですら一切殺さないように努める生活を送っていました。
しかし、ごく一握りの麻原に選ばれた出家信者のみが、その他の大部分の信者に一切知られないように、殺人をはじめとする一連のオウム事件に関与していたのでした。
そのごく一握りの信者らも、もともとは一切の殺生を行わない生活を送ってきたので、極めて重い葛藤を抱きながら、殺人等の違法行為に及んだのですが、それは、グル(霊的指導者)の指示であれば殺人すら肯定されるというタントラ・ヴァジラヤーナの教義(特にその中でも「五仏の法則」といわれる)を麻原から密かに明かされ、葛藤のうちに自らの行為を正当化したのでした(この教義の存在や実践も、大部分の信者には秘められていました)。
イ 麻原以外は「五仏の法則」を実践できないこと
1996年のオウム真理教に対する破壊活動防止法手続の「第3回弁明期日」(同年5月15日)の中で、麻原は、タントラ・ヴァジラヤーナとその「五仏の法則」に関する説明(弁明)を行い、以下の通り、麻原自身か麻原と同じ能力を取得した者しか「五仏の法則」は実践できないと述べているのです〈以下、引用は全て同弁明期日調書より。文中の「弁明者(芳永克彦)」は当時のオウム教団の代理人弁護士〉。
そして、オウム真理教において、麻原と同等のステージであるとされた弟子は、上祐代表を含めて皆無であったことは周知の事実です。
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○弁明者(松本智津夫)
(前略)そして、タントラ・ヴァジラヤーナがその最速の道という意味は、その苦しみを早く内在し、多く内在し、そしてそれをすべて経験し尽くし、完全解脱することを意味しているのでございます。したがって、それらの条件、つまりヒナヤーナが終了する、それだけではなくて、普通の四無量心ではなく、すべての魂の苦しみを自己の内側に内在するという強い決意と、そしてその実践がなされた者のみがタントラ・ヴァジラヤーナの道を歩くことができるわけでございます。
○弁明者(芳永克彦)そこまで、いわばあなたと同じだけの能力を取得した者でなければ実践はできないということでいいのかな。
○弁明者(松本智津夫)はい。私がその道にふさわしいかどうかは別にしまして、今説明したとおりでございます。 (※同調書の速記録p115より)
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ウ 「五仏の法則」を実践できるのは「成就者」のみで、「成就者」とは「五神通」を得ていて「神の状態」にある者であること
上記の弁明期日で、麻原は、ポア(死者の魂を高い世界に送るという技法)を含めたタントラ・ヴァジラヤーナの「五仏の法則」の実践をする資格のある者に関して、以下のように、「五神通」(神に通じる力・超能力のこと)を得て、さらには「神の状態」にある者と述べています。
そして、オウム真理教で、五神通を得たとか、神の状態にあるとされたのは、シヴァ神の化身とされた麻原以外には、上祐代表を含めて皆無であったことは、議論の余地なく、周知の事実なのです。
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○弁明者(松本智津夫) ヒナヤーナ、マハーヤーナ、タントラ・ヴァジラヤーナを通じて言えることですが、仏典にはそのような場面がたくさん出てきます。これはお釈迦様の前生談においてもそうですし、例えば先ほどのダンダキー王国のマハーモッガッラーナ聖者もそうですけれども、あるいはチベットの偉大なグルであられるジェツングル・ミラレーパもそうですけれども、そういう話がいろんな形で出てきます。そして、そのときに私はわざわざ定義として「成就者」という言葉を使っております。この「成就者」とは何かというと、既にもう肉体は存在しているが神の状態であるということを意味しているわけです。まずここまではよろしいでしょうか。(※同調書の速記録p110より)
(中略)
○弁明者(芳永克彦) いずれにしろ、このポアができる人というのは、ケースでもあるように、その成就者というのが前提になるわけですね。
○弁明者(松本智津夫) もちろんです。成就--先ほど述べましたとおりヴァジラヤーナそのものがもともと成就した者でなきゃだめなわけですから。(※同調書の速記録p111より)
(中略)
○弁明者(芳永克彦) したがって、いわばその完成をしていない修行者にとっても、そういうポアというのはあり得ないことになるわけですね。
○弁明者(松本智津夫) もちろんございません。
○弁明者(芳永克彦) 本当の功徳になるということは、物を正しく見つめる力、その正しさというのは三世--三世でいいのかな--を見つめる力を背景として、正しく見つめる力プラス心の働きなんだ。そして心というものを背景に修行を進めていくのがタントラヤーナ、あるいはヴァジラヤーナの教えなのです。
○弁明者(松本智津夫) そうです。つまり、その前提としては、六神通のうちの五神通はそろっていなければならないということを言っているわけです。
○弁明者(芳永克彦) こういう偉大な功徳の積み方、これができるのがヴァジラヤーナである。あるいはタントラヤーナである。しかし、これは最後にあなた方がなす修行である。つまり大乗の真の意味合いというのは、実践、小乗の実践をなして初めてわかるんだよということを理解しなければならないというようなことを言っておられますね。
○弁明者(松本智津夫) もちろん小乗の最終地点に到達しても、大乗の実践はできますが、タントラ・ヴァジラヤーナに移行することはできません。それはなぜかというと、先ほども述べましたとおり、心の働きにおいてもう完全にニルヴァーナに思考が行っておりますから、できないわけです。したがって、その大乗の実践の中でも特に優れたものということになります。(※同調書の速記録p112-113より)
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エ 「成就者」でない者が行うと、大罪・悪業になること
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○弁明者(芳永克彦) それで、さらに進んで、もう一つ例を挙げようと。ここにAさんがいた。この人は、今死ぬなら地獄へ落ちるかもしれない。しかし、この人はこれから先功徳を積んで、最終的には天界へ生まれ変わるカルマがあったとする。ここでまだ完成をしていない修行者が相手の人生を見誤って、今ここで殺せば、この人は天界へ生まれ変わると考えて殺してしまったと。要するに、殺した修行者としては、心の中では、相手はこれで天界へ生まれ変わるんだと思って殺した。この場合、その殺した修行者は功徳を積んだことになるか、悪業を積んだことになるか。これは要するに主観的には悪業を積むという意思はないんだけれども、やはりそれは間違っている。これは単に心の働きだけで功徳になるものではないからだということを言っていますね。
○弁明者(松本智津夫) はい、そのとおりです。(※同調書の速記録p112より)
(中略)
○弁明者(芳永克彦) あなたのこの説法を引き続いて読み上げますと、今のような説明をした後で、今度は例を変えてということになると思うんですが、ヒナヤーナ、小乗の修行をしている人が、つまり殺すなかれの修行をしている人がいて、例えばここにヴァジラヤーナのグルがいて、殺したとしましょう。これはどうですか。大罪を犯したことになるか、功徳を積んだことになるか、これは当然その小乗の人が犯したことであるので、大罪を犯したこととなるというのは、ヒナヤーナではその教えがないから。つまり、現象に対して何が功徳になり、何が悪業になるかというと、それは心の働きそれだけではなくて、正しく物を見詰める力、智慧、神通力なんだよというふうに言っていますね。
○弁明者(松本智津夫) はい、そうです。
○弁明者(芳永克彦)要するに、そのヒナヤーナ、小乗の修行をしている人にとっては、そういうポアということはあり得ないわけになるんですね。
○弁明者(松本智津夫)ございません。(※同調書の速記録p111-112より)
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オ 麻原ではなく弟子が行う場合は、麻原の指示・許可がある場合に限られること
タントラ・ヴァジラヤーナの「五仏の法則」を麻原ではなく弟子が行う場合は、麻原の指示・許可がある場合に限られることについては、以下の通り、公安調査庁自身や、関係識者や関係官庁も認めているところです。
(ア)公安調査庁自身が認めていること
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○弁明者(芳永克彦)この辺、公安調査庁の主張によると、だれでもこのヴァジラヤーナの教えが実践できるとは、さすがに公安調査庁も言っていないんだけれども、公安調査庁の論法によると、これは証拠の要旨11ページによると「麻原の説く秘密金剛乗はグルを絶対視し、そのグルに帰依し、自己を空っぽにし、その空っぽになった器にグルの経験ないしエネルギーをなみなみと満ちあふれさせること、つまりグルのクローン化をすることである」と言っているわけなんですがね。
つまり、そうやってグルのクローンになれば、自分もヴァジラヤーナが実践できるという形で能力を取得するという論法なんですが、(※同調書の速記録p113より)
(中略)
この点に関して、あなたの指示があれば、たとえ犯罪でも無条件で私は従いますというような、信徒さんなのか、元の信徒さんなのかわからないんですけれども、そういうふうに要するに自分にとってどういう意味があるのかわからないけれども、麻原さんが言うことであるならば、それは正しいことなんだから無条件に私は従って、殺人でも何でも行いますというようなことを言っている人がいるというふうに公安調査庁は証拠を出してきているわけです。(※同調書の速記録p115より)
(中略)
結論として、つまり要するに自分では理解できなくても、グル、麻原さんの言うことであれば、それをそのまま従うということが正しい行いであるという、それがヴァジラヤーナの実践になるということ(後略)(※同調書の速記録p116より)
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(イ)滝本太郎弁護士(オウム事件被害者でオウム真理教犯罪被害者支援機構の弁護士)の見解
以下は、滝本弁護士の見解です。
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また多くの判決でもいうように、オウム集団の破壊活動とか殺人とかは、「最終解脱者」とされる松本被告の秘密の指令があってのみされたものです。輪廻すべてを見通すという松本被告の指示があって「ポア」なる殺人になるのです。(※カナリヤの会ホームページより)。
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(ウ)警察庁の見解
以下は、警察庁の見解です。
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一方、松本被告は、「最終解脱者」として自らを「尊師」又は「グル」と呼称させ、信者に絶対的な帰依を求めました。教団の教義は、同人が既成宗教の教義を混交したもので、松本被告の指示があれば、ポアと称して殺人さえも「救済活動」として善行となるという「秘密金剛乗(タントラ・ヴァジラヤーナ)」を最も重視し、教団のテロ組織化に大きな影響を及ぼしました。(※警察庁のホームページより)。
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(エ)オウム事件の被告人である元オウム幹部の証言
以下は「坂本弁護士と家族を救う全国弁護士の会」の瀧澤秀俊弁護士のHPの記載です(麻原の第28回公判傍聴記)。
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松本智津夫被告に対する第28回公判が、28日、東京地裁で開かれた。新実智光被告が初めて証言に立った他、端本悟、中川智正各被告など、坂本弁護士一家殺害事件の実行犯3人の証人尋問が行われた。端本被告は、松本被告の不規則発言の影響をもろに受け、そのたびに言葉に詰まっていた (中略)。
検察官「被告以外に殺害を許す人はいないということですね」
端本「そうです」
検察官「早川から坂本弁護士をポアすると聞いた時、だれがそれを決定したか考えたのですか」
証人「麻原彰晃それ以外にありません」(中略)
検察官「坂本弁護士のポアが早川だけの判断とは思わなかったか」
証人「ポアということを言えるのは最終解脱者の麻原彰晃以外いません」(中略)
検察官「それでは、自宅に入れという指示はだれからのものですか」
証人(大きな声ではっきりと)「すべての指示は、教団の最高責任者で最終解脱者と自称していた麻原彰晃しかありません」
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以上のことから、殺人などの違法行為をオウム真理教信者に指示できる権能を持っていたのは、ただ一人麻原のみであったことが明らかだといえるのです。
(4)公安調査庁や公安審査委員会は3年ごとの最新状況(麻原の死刑執行)を反映した判断を全くしていないこと
以上に述べた通り、麻原が刑死した2018年7月6日以降は、
①麻原が存在しない以上、「麻原を独裁的主権者とする祭政一致の専制政治体制を我が国に樹立すること」など絶対不可能であり、このような「政治上の主義」は根底から消滅しており、
②殺人などの違法行為をオウム真理教信者に指示できる権能を持っていたのは、ただ一人麻原のみであり、麻原が存在しない以上、殺人などの違法行為は生じようがない、
のですから、このことからも、現在の観察処分の更新決定当時(2021年1月)、ひかりの輪が無差別大量殺人行為に及ぶ危険性は皆無だったといえるのです(もとより、ひかりの輪が、麻原の死刑とは関係なく、2007年の発足当初から、政治上の主義を有しておらず、麻原を批判的に総括していたことは、繰り返し述べてきたとおりです)。
米国務省の今回の判断は、こうした最新の状況に基づいたものと考えられ、まことに的確であり、5年ぶりに行われたという今回の判断が「最新かつ信頼できるものであり続けることを確保するもの」(同省コメント)であることは間違いありません。
一方、米国務省と同様に定期的に行われる観察処分期間の更新(3年に一度)において、米国務省とは正反対に、これまで通りの更新請求を行い(2020年10月)、これまで通りの更新決定を行った公安調査庁と公安審査委員会の判断(2021年1月)は、最新の状況を全く反映しておらず、米国務省の言葉を借りれば「最新かつ信頼できるもの」ではないことを如実に物語るものだといえるのです。
4 実は公安調査庁自身もひかりの輪に観察処分適用要件が存在しないと内心では認めている節があること
米国務省と違って最新の状況を全く反映せずに判断を行っている公安調査庁と公安審査委員会なのですが、実は公安調査庁自身も、ひかりの輪には観察処分適用要件が存在しないと内心では認めているのではないかと疑われる節があるのです。その理由は、以下のとおりです。
(1)米国務省の判断を事実上追認する記載をしていること
公安調査庁は、本年6月28日に『国際テロリズム要覧 2022』を刊行しました。公安調査庁は、米国務省の指定解除を受けて、同書において、「米国国務長官は、オウム真理教に対するFTO の指定を解除」と記載しています(※同要覧のp230)。
また、従前の『国際テロリズム要覧』、たとえば2021年(令和3年)版では、「欧米諸国等のテロ組織指定状況」として、「東・東南アジア」においてオウム真理教が米国からテロ組織指定されている旨を表において示していましたが、本年刊行の『国際テロリズム要覧 2022』では、オウム真理教の記載が丸ごと削除されています(※2022年版のp345-346の「5 その他の組織(東・東南アジア)」の箇所)。
何らの注釈もつけずにこのような記載や記載の変更を行ったということは、公安調査庁が、消極的な形で、事実上、米国務省の判断を追認したということを意味しています。
もっとも、同庁は、『国際テロリズム要覧』は、内外の各種報道、研究機関等が公表する報告書等から収集した公開情報を取りまとめたものであって、同庁の独自の評価を加えたものではないというかもしれません。しかし、公安調査庁は、ロシアの侵攻に抵抗するウクライナのアゾフ連隊をネオナチと断定して『国際テロリズム要覧 2021』に記述したことをプーチン政権に利用されるやいなや、「事実と異なる」として当該記述を削除しているのであって、たとえ内外の機関による情報であっても、同庁が評価を加えるべき重要事項については特別に評価を加えている事実があります。
しかし、今回の米国務省の判断に対しては、何らの評価も加えず記載や記載の変更等を行っているのですから、同庁が米国務省の判断を消極的に追認しているも同然といえるのです。
(2)『国際テロリズム要覧 2022』では、オウム真理教の「政治上の主義」を削除していること
また、『国際テロリズム要覧 2022』では、消極的のみならず積極的な形でも米国務省の判断を追認しているのではないかと思われる箇所があります。
すなわち、従前の『国際テロリズム要覧』、たとえば2013年(平成25年)版では、オウム真理教の「政治上の主義」について、「麻原を独裁的主権者とする祭政一致の専制政治体制を我が国に樹立すること」と明記されていました。そして、その「政治上の主義」の「実現の障害となるあらゆる勢力」を「攻撃対象」としていると明記されていました(※2013年版のp170)。
しかし、本年刊行の『国際テロリズム要覧 2022』では、上記の「政治上の主義」が丸ごと削除されており、単に「麻原の説く殺人を勧める内容や、結果のためには手段を選ばないとする内容を含む危険な『教義』である『タントラ・ヴァジラヤーナ』を最上位に位置付けて活動している。」と記されているのみで、すなわち「政治上の主義」が消失したことを同庁自身が認めているような内容に変化しているのです。
そして、「政治上の主義」が消失したことの必然的な結論として、「攻撃対象」も消失していることを同庁自身が認めているようで、現に「攻撃対象」の項目も削除されています(※2022年版のp221)。
これは、麻原の刑死によって「政治上の主義」が消失したことに加え、テロを指示する者もいなくなったことを理由に、オウム真理教の外国テロ組織指定を解除した米国務省の判断を、公安調査庁が、積極的な形で、事実上追認したとも解釈しうるものなのです。
(3)麻原刑死前の2016年当時から、公安調査庁内部では、ひかりの輪への観察処分の継続は無理との雰囲気が支配的になっていたこと
さらに、麻原が刑死する前の2016年当時から、公安調査庁内部では、ひかりの輪への観察処分の継続は無理との雰囲気が支配的になっていたという事実があります。それは、ひかりの輪の外部監査委員を務めた元公安調査官で、前記のCIAによる情報分析研修を受けたこともあるC氏が、陳述書において、以下のように述べているとおりです。
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公安調査庁内部では、私が在職中の2016年の時点(第5回観察処分期間更新決定に対する東京地裁の取消判決〈2017年9月25日〉が出る前の時点)で、ひかりの輪への観察処分を継続することは無理であろうという雰囲気が支配的になっていました。
ですから、東京地裁の上記判決は、「出るべくして出た判決」という受け止め方が庁内で大勢を占めたと聞いています。
つまり、多くの公安調査官自身も、ひかりの輪には観察処分適用要件が存在しないことを認識しつつも、適用要件があると主張し続けなければならないために、無理な証拠作りをしてきたことになります。
それは、実際に今回、公安調査官作成の証拠の数々を実際に見てみて実感しました。
事実を曲げた無理な証拠の作成は、私自身も、公安調査官だった時に行ったことがありますし、同僚がそのような証拠を作ってくるのを多数見ていましたので(私はそのチェック役を務めたこともあります)、現在、多くの良心的な公安調査官が、その矛盾に悩んでいることも、想像がつきます。
しかし、いくら現場の公安調査官が矛盾に苦しんでいても、役所というものは、一度方針が決まってしまえば、なかなか方針転換ができませんから、無理な観察処分が続き、誰にとっても不本意な、ゆがんだ状況が続いてしまいます。
一昨年7月、麻原に対する死刑が執行され、「麻原を独裁的主権者とする祭政一致の専制国家の樹立」などという「政治上の主義」がいっそう幻(まぼろし)ともいえる状況になった今、行政機関ならびに司法機関は、法と証拠に基づく冷静な判断をしなければならないと考えています。
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以上のように、麻原刑死前の2016年当時から、ひかりの輪への観察処分継続は無理との雰囲気が支配的だったほどなのですから、ましてや麻原刑死後の2018年7月以降は、その雰囲気がさらに支配的になっていたのは想像に難くありません。
(4)米国務省の指定解除の判断の根拠に、公安調査庁の見解があると思われること
そして何より、米国務省が、公安調査庁からの情報提供を受けた結果として指定解除の判断に至ったと思われることも、その事実を裏付けています。
CIA等の米国情報機関が、遅くとも1998年頃からオウム真理教関連情報を公安調査庁から入手し続けてきたことは前記の通りですが、とりわけ今回のような指定解除に際しては、25年間続けてきた従来の方針を大転換するもので、かつ米国民の安全に関わる重大事なのですから、独自の情報収集に加えて、あらためて公安調査庁から最新の情報を十分に入手していることは間違いないと思われます。
その結果として指定解除の判断に至ったということは、情報提供元の公安調査庁自身が、オウム真理教によるテロ発生の恐れは実は存在しないという見解を、公式・非公式に米国の情報機関に伝えていたからではないかとも考えられるのです。それは、上記(1)~(3)で述べた事実からも、強く推測されます。
このように、公安調査庁自身が、ひかりの輪には観察処分適用要件が存在しないと内心では認めている節があるといえるのです。
5,国際基準から大きく乖離した観察処分は取り消されるべきこと
以上の通り、公安調査庁や公安審査委員会の情報収集・分析力をはるかに上回る米国の情報機関の最新情報に基づいて、米国務省はオウム真理教の外国テロ組織指定を解除するに至りましたが、その判断に至った理由としては、2018年の麻原刑死後に、①麻原を独裁的主権者とする国家の樹立などという「政治上の主義」が消失しており、②「政治上の主義」の推進等のための殺人を指示する者(麻原)が存在しなくなったという点が考えられるのであり、さらには公安調査庁自身も内心では同様の見解を持っているのではないかと疑われることを述べてきました。
なお、上祐代表をはじめとするひかりの輪の主要メンバーは、ひかりの輪の発足以前(アレフから脱会する2007年以前)より、麻原は刑死しないと盲信するアレフ信者らに対して、麻原は必ず刑死するので受け入れるべきことを説いていたのであり(※こちらの記事の「(40)2006年4月」の箇所)、ひかりの輪の発足後(2007年以後)も一貫して麻原の死刑に賛同してきたことが外部識者にも認められている(※識者の意見書のp9)のであって、それは公安調査庁が作成した証拠の中にすら記されていることなのです。
また、ひかりの輪では、2008年、麻原を批判的に総括し、麻原への帰依を全面否定する詳細な総括文を作成し、記者会見で発表し、ひかりの輪のインターネットサイトで公表してきましたし、同趣旨の出版物(①上祐の出版物、②上祐以外のスタッフの出版物)を一般の出版社から刊行して広く世に訴えています。その総括に基づき、翌2009年には、オウム事件の被害者組織との間で被害者賠償契約を締結して、賠償金の支払いも継続してきています。
これらのことからも、ひかりの輪が当初から一貫して、公安調査庁や公安審査委員会が主張してきたような「麻原を独裁的主権者とする専制国家の樹立」などという政治上の主義など全く有していなかったことは明らかなのであって、それは麻原の刑死によって、さらに、よりいっそう明らかになったのですから、こうしたひかりの輪の経緯や最新の状況も踏まえた上で、観察処分は取り消されるべきであると考えます。
それによって、米国をはじめとする国際基準から大きく乖離してしまった現在の我が国の規制状況、すなわち、米国務省の言葉を借りれば「最新かつ信頼できるもの」ではなくなってしまっている我が国の規制状況が是正されることになり、我が国のテロ対策資源が無駄に浪費されることなく、本当に必要な箇所に効果的に投入されることになり、国民の安全確保につながり、しかも米国をはじめとする諸外国の情報機関からも「信頼」され得るようになると考えられるのです。
もとより、ひかりの輪としても、今後とも被害者の方々への賠償を続け、オウムの反省・教訓の情報発信などを通じて、贖罪に努めてまいりたいと考えておりますが、この点に関しては、米国務省が今回の指定解除の決定とともに「(この指定解除は)グループの過去のテロ行為や被害者の被害を見過ごすものではない」とした点をしっかりと受け止めたいと考えています。