書評『オウム事件 17年目の告白』(扶桑社 2012)
(2014年1月12日)
●有田芳生さん(ジャーナリスト・参議院議員)
目次を見て驚いた。すぐに哲学者フリードリッヒ・ニーチェの言葉が心に浮かんだ。 「脱皮することのできない蛇は滅びる。(中略)」
この目次の項目が具体的に説明されているならば、上祐史浩氏は「脱皮」あるいは「脱皮しつつある」のかもしれない。一気に原稿を読み終えた。(中略)そして、対談では私が指摘した疑問に上祐氏は具体的に答えている。
(『オウム事件 17年目の告白』の「特別検証」寄稿より)
今回は、この本の目次を見た段階でぜひ(上祐氏と)話をしてみたいと思ったんです。 というのは、オウム真理教が起こした数々の事件についてだけではなくて、上祐さんのご両親の話が書かれていたからです。
これは率直に驚きでした。 事件について語るのは、社会とオウムの対立について語ることです。 それに対して、自分と両親について語ることは、「社会の中のオウム」について語ることだと思うんです。
多くのまじめな若者たちがどうしてオウムに魅力を感じ、さらには凶悪な犯罪に走ってしまったのか。
日本社会がどうしてそのような集団を生み出してしまったのか。
上祐さんがそれを考える中で自分と両親の話に行き着いたのだとしたら、オウムばかりでなく、現代社会におけるカルトの問題、若者の内面に潜む根源の問題にまでたどり着いたはずだと思えたんです。(中略)
本書を読み、今日のお話も聞いて、上祐さんや周りの人たちが大きく脱皮しつつあることはわかりました。
(『オウム事件 17年目の告白』の「検証対談」より)
地下鉄サリン事件などを「内部」からどうみていたか。 はじめて知ることばかりでした。 カルト対策としても意味ある告白だと思います。
(有田芳生さんtwitterより)
人間っていうのは変わりうるものだと僕は思ってますから、多くの今日の参加者の皆さんが上祐の今度の本を読んでないうえでの議論なんですが、僕は読んだうえで来ているんで、この17年間ここまで変わったかっていう印象がものすごく強いんですよ。
で、番組でも言ったけども、自分の父親とか母親のことについてですね、彼が普通なら語らないようなことまで書いているんですよ。
その心境の変化っていうのは、やはり変化として認めておかなければいけないというふう思うんですよね。(中略)
当時は33歳ですよ。それが50歳になって自分の人生どうかっていうことを考えながら、彼なりに努力をしつつある経過だっていうふうに僕は見なければいけないと思っているんで、批判するのは簡単だけれども、人間というのは変わりうるものだっていうふうに見ないと、それはもう自分に降りかかってくることなんじゃないんですかね。
(そこまで言って委員会「辛坊たまらん」(読売テレビ)での発言より)
●下條信輔さん(認知心理学者・カリフォルニア工科大学生物学部教授)
オウム事件関係の類書の中で「もっともよく整理され」「もっとも深く突き詰めている」と評価が高い。
事件の経緯についていくつもの新事実が語られているが、何と言っても麻原と若い信者たちの心理を、内側から分析したのが出色だ。(中略)
筆者はといえば、かねてから抱えていた謎を解く、大きなヒントを本書から与えられた。インパクトが大きかったので書き留めておきたい。(中略)
今「麻原オウムの過ち、自らを含む信者たちの妄信の過程」と書いた。これらの点については、優れた知性が全力を挙げて解明せんとした痕跡を、少なくとも筆者は認める。(中略)
個人的には本書によって「なるほど」と解明のヒントを与えられた大きな謎が、ふたつほどあった。
(「オウム事件17年目の告白」を読む(WEBRONZA・朝日新聞社)より)
●鈴木邦男さん(政治活動家、新右翼団体「一水会」最高顧問、思想家)
1月22日(火)はロフトプラスワンで元オウム真理教幹部の上祐史浩さんに会った。『オウム事件17年目の告白』は力作だ。
なぜ、オウムに魅せられたのか。なぜ麻原を師としたのか。なぜあんな事件が起きたのか。そして麻原との訣別…などについて、実に真摯に語っている。(中略)
20年以上悩み、逮捕され、極限を見た上祐さんの体験をこうして聞ける。とても貴重です。又、貴重な本です。じっくり読みました。感動しました。
(鈴木邦男氏のサイトより)
●鴻上尚史さん(劇作家・演出家)
時代が生んだといえる犯罪は、その原因を考え続けることが、次の時代のために必要だと思うのです。(中略)
「なぜ麻原を盲信してしまったのか」は、「(中略)つまり、正しいから信じるのではなく、自分を高く評価するものを信じたいという心理である」と書かれています。
これは正直な言葉だと感じます。
(中略)早稲田の大学院まで出て、小惑星探査機「はやぶさ」でやがて有名になるJAXAに就職までした人物が、「自己存在価値に飢えていた」と書きます。いえ、エリートであるからこそ、常に競争にさらされ、自分が勝つか負けるかに敏感になるのでしょう。
この部分は納得できました。
(『週刊SPA!』2013/3/5・12合併号に掲載された書評より)
●『夕刊フジ』(2013年2月27日号)
オウムの内情や犯罪へ手を染めるに至った経緯を詳細に明らかにした。(中略)
教団幹部しか知らなかった内情を子細に暴露。(中略)
当時オウムを追及した有田芳生氏との対談も収め、読み応えがある。
●保阪正康さん(ノンフィクション作家)
上祐書はオウムが起こした各種事件をすべて自己批判、サリン事件は、麻原の予言的中演出のために強行されたとの自説を披瀝(ひれき)する。
「麻原は極度の誇大妄想と被害妄想の人格障害(精神病理)だった」との断言にあるように、いわば憑きものが落ちての自己省察の書である。なぜ麻原に魅かれたか、私はオウム人だった、の分析で語り続ける。
(『朝日新聞』2013年2月17日掲載の書評より)