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10ヨーガに関する教本の紹介 アーカイブ

2016年7月27日

0018『ヨーガ・気功教本』

『ヨーガ・気功教本』 47P

はじめての方にもよくわかる、ヨーガの裏表を熟知したひかりの輪が、最新・最善のヨーガ行法をご紹介します。

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目 次

■□1 ヨーガとは?........................................................................ 3

■□2 ヨーガの流派........................................................................ 4

■□3 『ヨーガ・スートラ』におけるヨーガの8部門(階梯)............... 5

(1) 禁戒(ヤマ)
(2) 勧戒(ニヤマ)
(3) 坐法(アーサナ)
(4) 調気法(プラーナーヤーマ)
(5) 制感(プラーティヤーハラ)
(6) 凝念(ダーラナ)
(7) 静慮(ディアーナ)
(8) 三昧(サマディ)

■□4 ハタ・ヨーガの技法............................................................... 9

(1) アーサナ
・気(プラーナ:生命エネルギー)について
・クンダリニーについて
・チャクラについて
・心と気(エネルギー)の関係について
(2) プラーナーヤーマ(調気法)
(3) ムドラー

■□5 クンダリニー・ヨーガ............................................................ 16

■□6 クンダリニー・ヨーガの注意点・問題点 ................................. 17

(1) 我欲ではなく、心を豊かにするという正しい動機を持つ
(2) 十分な経験のある指導者のもとで行う
(3) 精神疾患のある人は避けるべき
(4) 焦って行わない
(5) 自然に親しむ

■□7  代表講話 『クンダリニー・ヨーガと霊的修行のポイント』...  20

■□8  ヨーガの実践 ~ 行法紹介 ................................................  26

<アーサナ ①前屈系> 上体を前に倒すポーズ / 頭を膝につけるアーサナ
<アーサナ ②ねじり系> 三角ねじりのアーサナ /ワニのアーサナ
<アーサナ ③反り系> コブラのアーサナ / 弓のアーサナ
<アーサナ ④その他> 鋤のアーサナ / シャバ・アーサナ
<プラーナーヤーマ> 完全呼吸法

■□9  気功とは? ........................................................................ 35

・「気」とは?
・気功の目的「天人合一(てんじんごういつ)」
・修練の方法~調身・調息・調心
・気功修練の段階
・気功とヨーガ

■□10 気功の実践 ~ 行法紹介 ......................................................  37

<動功> スワイショウ①(前後のスワイショウ)
スワイショウ②(ねじりのスワイショウ)
<静功> 三円式站粧功(さんえんしきたんとうこう)
<収功>

■□11 ひかりの輪のヨーガと気功 .............................................  40

(1) ナチュラル・ヨーガ
(2) 呼吸のヨーガ
(3) エンライトメント・ヨーガ
(4) 流体循環気功

■□12 ヨーガ・気功 体験談 .........................................................  44

 

2016年8月27日

0036気の霊的科学:人類の革新の可能性

以下のテキストは、2016年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学と人類革新の道 ヨーガ行法と悟りの瞑想』第2章として収録されているものです。教本全体にご関心のある方はこちらまで。

 

1.気(生命エネルギー)の霊的科学とは

   「気」とは、体の中を流れる目に見えない生命エネルギーである。その存在は、物理学的には証明されていないが、気の思想を前提とし、それを活用する効果は、例えば、中国医学の鍼灸・指圧の治療法のように、長い歴史の中で経験的に広く認められてきた。

  その結果、鍼灸・指圧は、現代では大学で教えられ、国家資格があり、保険医療の対象にもなっているように、WHO(世界保健機関)を含め、公式に認められている事実がある。

   さらに、依然として異端の学会ではあるが、トランスパーソナル心理学会などでは、気の存在を何かしら物理量で表せないかという検討・研究がなされるなどしている。

  この生命エネルギーを表すために、気という言葉を使うのは、中国の思想の道教・仙道・気功・中国医学などである。一方、ヨーガではプラーナ、チベット仏教では風(ルン)などと呼ばれる。

2.気の通り道:気道に関して

   体内には、気が流れる道がある。これを気道という。中国医学では、経絡(けいらく)(経脈(けいみゃく)と絡(らく)脈(みゃく))と言われてよく知られている。ヨーガやチベット仏教では、ナーディ(脈管(みゃっかん))と呼ばれる。

   気道の場所も気道の総数も、それぞれの思想・学派によって異なる。中国医学などでは、経脈には、12の正(せい)経(けい)と呼ばれるものと、8の奇(き)経(けい)と呼ばれるものがあるとすることが多い。ヨーガや仏教では、主に3つのナーディがあるとするが、それを含めて72000本ものナーディがあると説かれることが多い。


3.気道の交差点:経穴、気道の密集点:チャクラ

   複数の気道が通る交差点があり、これを中国医学では、経(けい)穴(けつ)(ツボ)という。経穴の総数については複数の見解があるが、例えば、350以上の正穴(せいけつ)と250以上の奇(き)穴(けつ)があるという。

   そして、チャクラとは、ヨーガや仏教が説く、非常に多くの気道が密集しているところである。後に詳しく述べるが、体内の各種の神経(しんけい)叢(そう)や臓器に関係し、様々な能力や煩悩と関係しているとされる。


4.気の強化と気道の浄化の恩恵:心身の健康・悟り

   そして、仏教やヨーガにおいては、①気を強化することと、②気道を浄化して気道の中に十分な気がスムーズに流れるようにすることが、その人の心身の健康、煩悩・心のコントロール=悟りを実現するために非常に役立つと考えられている。言い換えれば、「気」と「心」と「体」が深く関係しているというのである。

  まず、中国医学では、気の流れが悪い部分に、病気が発生すると考える。その意味で、病気という漢字は、「病んだ気」のために体の疾患=病気が生じるという思想を表している。よって、気を調整することで、病気を治したり、予防したりすることができると考えられている。

   また、気と、気持ち=心は、気と体の関係よりも、いっそう深く関係・同期している。気の強さや気道の状態によって、心が大きく変化するのである。気を調整することで、煩悩・心をコントロールし、悟りの大きな助けになるというのである。これについては、後に詳しく述べたい。

   そして、体操や呼吸法などの身体の操作を通して、気のコントロールを積極的に行うヨーガをハタ・ヨーガと呼ぶ。これと同じ技法は、ヨーガと同じインドを発祥とする仏教に関しても、密教の中に取り入れられた(特に後期密教とされる密教の中に)。

   しかし、気のコントロールを積極的に行うヨーガ・仏教の修行法は、日本には、実質上20世紀後半になるまでは、本格的に輸入されることはなかったと私は考えている。


5.ヨーガのナーディの思想

   前にも述べたように、気道(ナーディ・脈管)とチャクラの位置や数に関しては、ヨーガ・仏教の各学派・宗派で異なる。私たちは、それらを総合的に研究してきた。

   その中で、図A・Bは、著名なヨーガ行者のスワミ・ヨーゲシヴァラナンダ師が解説する、3つのナーディと9つのチャクラの図である(『魂の科学』〈たま出版刊〉より引用)。

※図A↓


※図B↓


   まず、三つの主要なナーディは、以下の通りである。

①スシュムナー管
   尾てい骨から背骨(脊髄)を通って頭頂に至る。中央の気道。

②ピンガラ管
   尾てい骨からスシュムナー管よりも右側を通って右の鼻に至る。
   右側の気道。別名スーリヤ・ナーディ。

③イダー管
   尾てい骨からスシュムナー管よりも左側を通って左の鼻に至る。
   左側の気道。別名チャンドラ・ナーディ。


6.ヨーガのチャクラの思想

   次に、9つのチャクラの位置と名前は、以下のとおりである。

①頭頂:サハスラーラ・チャクラ
②眉間:アージュニャー・チャクラ
③咽頭部:ヴィシュッダ・チャクラ
④胸部・心臓部:アナーハタ・チャクラ
⑤肝臓部:スーリヤ・チャクラ
⑥膵臓部:チャンドラ(マナス)・チャクラ
⑦上腹部:マニプーラ・チャクラ
⑧下腹部:スヴァディシュターナ・チャクラ
⑨尾てい骨:ムーラダーラ・チャクラ

   ヴェーダの聖典では、これらの9つのチャクラが説かれているが、現代のヨーガの導師は、その中のスーリヤ・チャクラとチャンドラ・チャクラを除いた7つのチャクラを主なチャクラとして強調することが少なくない。この7つのチャクラの性質に関しては、『ヨーガ・気功教本』を参照されたい。

   なお、ヨーガ行者の体験の中には、これとは異なったピンガラー管・イダー管の位置を体験する者もいる。例えば、ピンガラー管とイダー管が、尾てい骨からそれぞれ直線的に右側か左側を上っていくのではなく、双方ともが左右に蛇行しながら、チャクラの部分でお互いに交差して上っていくものである。これについては、別に解説する。


7.仏教のナーディの思想

   図Cは、チベット仏教の僧侶ツルティム・ケサン師が解説する3つのナーディと4つのチャクラである(『図説マンダラ瞑想法』〈ビイング・ビッグ・プレス刊〉229頁より)。

※図C↓


   まず、3つの気道は以下の通りである。

①ウマ・アヴァドゥーディ(中央脈管)
   下端は性器で、脊髄を通り、頭頂に至る。太さ10ミリ程とも。
   ※下端は臍(へそ)から指4本分下がった所との表現もある。
   ※位置が、脊髄ではなく、背骨の前という表現もある。
   ※管の太さは状況で変わる(右と左の脈管も同じ)。

②ロマ・ラサナー(右の脈管)
   中央脈管の右側を通り、その下端は中央脈管の下端に、
   その右側から繋がり、その上端は眉間の下の鼻の奥に、
   その右側から繋がっている。太さ5ミリ程とも。
   各チャクラで、中央脈管と左の脈管と絡み合っている。

③キャンマ・ララナー(左の脈管)
   中央脈管の左側を通り、その下端は中央脈管の下端に、
   その左側から繋がり、その上端は眉間の下の鼻の奥に、
   その左側から繋がっている。太さ5ミリ程とも。
   各チャクラで、中央脈管と右の脈管と絡み合っている。


8.仏教のチャクラの思想

   次に、4つのチャクラの位置と名称は、以下の通りである。

①頭頂:大楽輪

②咽頭部:受用輪
   正確には、喉そのものの中にではなく、喉から背骨側に入った奥のあたりにある。

③胸部・心臓部:法輪
   正確には、心臓ではなく、両乳房の中央の所から背骨側に入った奥のあたりにある。

④臍:変化輪
   正確には、臍そのものではなく、臍があるところから背骨側に入った奥のあたりにある。

   なお、中央の気道の位置として、背骨・脊髄に加え、体の前面、背中とお腹の中間という3つがあるという考えもある。すなわち、体を側面から見て、前側の気道、中央の気道、後側(背骨)の気道である。


9.チャクラでの気道の詰まりが煩悩を生じさせる

   さて、チャクラの部分で、気道に詰まりがあって、気がうまく流れず、停滞すると、そのチャクラに対応した煩悩が生じる。気道が詰まっているチャクラによって、それぞれ異なる煩悩が生じる。

   ただし、気=エネルギーが不足していれば、気道は詰まっていても、その詰まった部分までエネルギーが届いていない状態になる。この場合は、煩悩は生じない。あくまでも、エネルギーが気道の詰まった部分にぶつかり、その流れが遮られている場合に煩悩が生じる。

   すなわち、煩悩とは、流れようとするエネルギーと、それを遮る気道の詰まりの間の緊張状態が作るストレスなのである。例えば、性器のところのスヴァディシュターナ・チャクラの部分で気道が詰まると、性欲が生じるのである。

   そして、そこで性欲を満たすならば(すなわち射精をするならば)、そのチャクラの部分から、エネルギーが外に漏れだす。その結果として、エネルギーと気道の詰まりの緊張状態は一時的に解消されるから、性欲が消える。しかし、エネルギーが回復して、再び緊張状態が生じると、再び性欲が現れることになる。


10.気道の浄化の重要性:悟り・解脱の道

   仮に、チャクラの部分の気道の詰まりを取り除くことができたとしたら、緊張状態は解消され、そのチャクラを越えて、エネルギーが上昇する。

   そして、すべてのチャクラに詰まりがなくなると、エネルギーは頭頂のサハスラーラ・チャクラに集中する。このチャクラは特別であって、このチャクラにエネルギーが集中すると、悟り・解脱が生じるとされる。

   なお、頭頂に至る気道は、中央気道だけである。よって、中央気道にエネルギーが集まるときに、心は不動となり、悟り・解脱に至るといわれることがある。


11.気と気道の3つの状態

   ここで、エネルギーと気道の状態を以下の3つに分類することで、より理解を深めたいと思う。

①エネルギーが不足している場合
   煩悩は生じない。無気力な状態。意志・集中力も弱い。

②エネルギーはあるが、気道が詰まり、流れが阻害される場合。
   煩悩が生じる。無気力ではないが、煩悩のため心が不安定で、集中も妨げられる。

③エネルギーが強く、気道の詰まりもない場合。
   煩悩がなく、心が静まり、集中力が強い。高い瞑想状態。


12.各チャクラと各気道と煩悩の関係

  さて、次に、各チャクラと煩悩の関係であるが、主な7つのチャクラに関しては、『ヨーガ・気功教本』に詳説したので、そちらを参照されたい。

   残りの二つの副次的なチャクラのうち、スーリヤ・チャクラは、「太陽のチャクラ」ともいわれ、小さな太陽のような形をしており、肝臓の右側にあって、火元素優位だとされる。食物の消化作用を助けている。

   このチャクラの部分で気道が詰まると、怒りが生じるという。それは、実際に怒りを表現せずに、内面に怒り・ストレスをため込んでいる状態の場合もある。この怒りは、ムーラダーラ・チャクラの怒りよりもレベルが高く、単に「嫌だ嫌だ」というのではなく、他人の問題に対して怒る場合などがある。

   チャンドラ・チャクラは、「月のチャクラ」ともいわれ、球形であり、膵臓と脾臓の近くにあり、膵液の分泌に関係しているとされる。

   このチャクラで気道が詰まると、無智の煩悩が生じる。無智とは、仏教では根本煩悩といわれ、物が正しく考えられない状態である。具体的には、単純に物が考えられない愚鈍な状態、動きが鈍い、目先の快楽に偏る、怠惰である、(自己中心で)他に冷淡・無関心といった状態をもたらす。さらに、間違った霊的・宗教的な探求・魔境、イメージ上の性欲、覚醒剤の使用にも関係するともいわれる。


13.3つの気道と煩悩の関係

   中央・右・左の3つの気道が、仏教の3つの根本煩悩である貪(貪り)・瞋(怒り)・痴(無智)に関係しているという考えがある。どう対応するかというと、以下のとおりである。

①中央気道:貪り・執着
   どういう対象への貪りかは、どのチャクラの部位で、中央気道が詰まるかによる。
   なお、この気道だけは、他の気道と異なり、頭頂のチャクラに通じており、どこも詰まっていなければ、解脱・悟り・真理に対する貪り=探求心・求道心が生じることになる。

②右気道:怒り
   どういう性質の怒りかは、どのチャクラの部位で、右気道が詰まるかによる。

③左気道:無智
   どういう性質の無智かは、どのチャクラの部位で、左気道が詰まるかによる。


14.各チャクラの3つの詰まり

   この3つの気道は、各チャクラを通っている。そこで、各チャクラの中央や右側や左側で気道が詰まっているならば、そのチャクラに対応する煩悩に加え、貪り・怒り・無智の煩悩も、加わっている可能性がある。

  例えば、スヴァディシュターナ・チャクラの右側で詰まっている場合は、そのチャクラに対応する煩悩である性欲に関係する怒り、例えば、異性への性愛に絡んだ怒りが生じる可能性がある。

   こうして、サハスラーラ・チャクラを除くと6つの主なチャクラがあるが、それぞれが3つの気道と関係しているので、全部で18か所の詰まりのポイントがあることになる。それに加え、チャンドラとスーリヤの2つのチャクラがある。


15.気道の浄化の方法:身体行法・瞑想・戒律・聖地

   気道の浄化の方法としては、物理的な方法、すなわち、ハタ・ヨーガなどの身体行法によるものと、精神的な方法がある。

   ハタ・ヨーガなどの身体行法として、アーサナ、プラーナーヤーマ、ムドラーが有効である。この詳細は『ヨーガ・気功教本』を参照されたい。

   なぜ有効かというと、気道の詰まりは、経験的に言って、①筋肉や関節をほぐす、②血流を増大させる、③体を温める、④深い十分な呼吸によって浄化することができるからである。よって、アーサナ(体操・体位法)やプラーナーヤーマ(呼吸法・調気法)が有効なのである。

   また、ヨーガ行法以外にも、同じような効果を持つ修行法として、気功の行法、歩行瞑想、(温泉の)入浴などは有効である。また、中国医学の鍼灸・指圧・マッサージなどが、気道の浄化に有効な理由もわかるだろう。

   なお、プラーナーヤーマやムドラーは、尾てい骨に眠っているプラーナ(気・生命エネルギー)の親玉ともいうべきクンダリニー(宇宙エネルギー・根源的生命エネルギー)を覚醒させる効果がある。

   このクンダリニーが覚醒すると、その力強いエネルギーの上昇によって、ナーディを物理的に浄化することもできる。たとえて言えば、詰まった配管を高圧洗浄するようなものである。

   次に、精神的な方法であるが、一つは、煩悩を和らげる瞑想である。気道の詰まりは、煩悩と一体不可分である。よって、何かしらの精神的な作業、煩悩を和らげる効果を持つ思索ないしは精神集中によって、煩悩が和らげば、同時に気道も浄化されることになる。これは、ヨーガでは、ジュニャーナ・ヨーガやラージャ・ヨーガの実践に分類されるだろう。

   二つ目は、日ごろから悪行を慎み、善行に励むことである。宗教的な表現では、戒律を守る、功徳を積むことである。悪行は、煩悩を増大させ、気道を詰まらせる。言い換えれば、気道を詰まらせているものが、煩悩の原因である悪いカルマという考え方がある。

   なお、カルマ(業)とは、過去の行為の後に残存する潜在的な力のことをいうが、悪いカルマは気道を詰まらせ、良いカルマは気道を解放する力・効果を持っているということである。

   よって、日ごろから悪行を慎み、善行に励めば、おのずと気道は浄化される。ただし、それだけでは、十分には浄化できないために、上記の身体行法や瞑想などによっても浄化するのである。

   三つ目は、神聖な環境に身を置くことである。体の中の気(内気)の状態は、体の外の環境の気(外気)の状態と繋がっており、大きな影響を受ける。すなわち、神聖な気・波動に満ちた聖地に身を置くと、内気も浄化することができるのである。

   ひかりの輪では、修行の四つの柱として、①教学(正しい考え方の学習)、②功徳(悪行の抑止と善行の励行)、③行法(身体行法や瞑想実践)、④聖地巡り(や自宅の霊的な浄化)を掲げている。これは皆、気を強化し、気道を浄化する効果がある。


16.善悪を感じる身体への進化:人類の革新へ

   気を強化し、気道を浄化することに成功すると、エネルギーがスムーズに身体を流れていく結果として、心身が軽快で楽になり、心の安定と広がりが生じる。また、クンダリニーの覚醒に成功すると、そのエネルギーによって、内的な歓喜も生じる。

   そして、これは、修行者が悪行を回避し善行を励行する上で、非常に重要な変化をもたらす。というのは、奪い合いなどの悪行をなせば、気道を詰まらせ気を弱めるため、心身が不快となり、分かち合いなどの善行をなせば、心身が心地よくなるからである。

   普通の人は、煩悩・欲望・奪い合いなどは、頭では「悪い」とわかっているが、体や心がそれを求めてしまう。また、逆に、分かち合い・慈悲は、頭では「善い」とわかっているが、体や心は「辛い」と感じる。

   つまり、頭と心と体がバラバラであり、理性と感性が、矛盾・葛藤しているのである。これが、現代の社会になっても依然として、個々人が善悪を十分に分別して行動できない理由であるし、無数の事件・紛争が続いている理由である。

   しかし、気の強化と浄化を進めていくならば、善いことをすれば心身も「気持ちよい」と感じ、悪いことをすれば心身も「気持ち悪い」と感じる状態に、いわば「進化」することができるのである。

   言い換えれば、善悪を理解する頭に加え、「善悪を感じる体」を持つことができるようになる。これは、都市文明が始まって以来、数千年もの間、人類が現在に至っても克服できていない奪い合いや戦争を乗り越えるための決め手になるのではないだろうか。だとすれば、これは、人類の革新・進化であろう。


17.ヨーガや仏道修行の様々な恩恵:高い集中力など

   ここで、気を強化・浄化するヨーガや仏道修行の恩恵を列挙しておきたいと思う。

   第一に、それは、悟り、すなわち、心の安定と広がりを与える。そして、心の安定は、正しい判断力や直観力を含めた智慧を高めることになる。

   第二に、気の状態と密接に関連する心身の健康を向上させる。そして、心身を軽快で楽にして、究極的には、内的な歓喜をもたらす。

   第三に、物事の達成・人生の成功をもたらす。すでに述べた安定した心、智慧、健康に加え、気の強化・浄化ができていれば、前に述べたように物事を実現するために必要な強い意志・集中力が得られるのである。

   特に、仏教・ヨーガの修行が深まると、禅定・サマディなどと呼ばれる深い瞑想状態に至る。それは、心が深く安定し、非常に高い集中力を持った状態である。無心の集中力とでもいうべき状態である。

   これは、スポーツの世界で選手が最高のパフォーマンスを発揮する際の特殊な心理状態である「ゾーン状態」や、心理学で何もかもが流れるようにうまくいく心理状態とされる「フロー状態」に深く通じるものである。

   その状態に入った選手は、勝敗の結果を気にする雑念がなく、無思考の状態であり、流れるように最善の動きをするという。まさに、無欲の極限的な集中状態である。

   そして、これを偶然・偶発的に体験するのではなく、継続的な訓練によって作り出そうとするのが、ヨーガや仏教の禅定・サマディの修行である。

 

 

2017年9月 2日

0020ヨーガの歴史と全体系

以下のテキストは、2017年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学とヨーガの歴史と体系』第2章として収録されているものです。教本全体にご関心のある方はこちらまで。

 

1.ヨーガを生んだインドの古代宗教

   ヨーガを生んだインドの古代宗教の源として、ヴェーダと呼ばれる宗教文書がある。これは、紀元前1000年頃から紀元前500年頃にかけてインドで編纂された一連の宗教文書の総称である。なお、「ヴェーダ」は 「知識」の意である。

   ヴェーダは、バラモン教の聖典で、バラモン教を起源として後世成立したいわゆるヴェーダの宗教群にも、多大な影響を与えている。長い時間をかけて口述や議論を受けてきたものが後世になって書き留められ、記録されたものである。

   ヴェーダは、シュルティ(天啓聖典)と呼ばれ、特定の作者によって作られたものではなく、永遠の過去から存在していたとされ、霊感に優れた聖者達が神から受け取って顕現したと考えられている。

   そして、口伝でのみ伝承され、長らく文字にすることを避けられ、師から弟子へと口頭で伝えられたが、後になってごく一部が文字に記されたとされる(ヴェーダ、特にサンヒターの言語は、サンスクリット語とは異なる点が多く、ヴェーダ語と呼ばれる)。

   広義でのヴェーダは、

①サンヒター(本集)
   ヴェーダの中心的な部分で、マントラ(讃歌、歌詞、祭詞、呪詞)で構成

②ブラーフマナ(祭儀書・梵書)
   紀元前800年頃を中心に成立、散文形式で記述、祭式の手順や神学的意味を説明

③アーラニヤカ(森林書)
   人里離れた森林で語られる秘技、祭式の説明と哲学的な説明

④ウパニシャッド(奥義書)
   哲学的な部分、インド哲学の源流、紀元前500年頃を中心に成立、ヴェーダーンタ(「ヴェーダの最後」の意)を含む。

   狭義では、サンヒターだけをヴェーダといい、①リグ・ヴェーダ、②サーマ・ヴェーダ、③ヤジュル・ヴェーダ、④アタルヴァ・ヴェーダ、という4種類がある。ヴェーダは一大叢書(そうしょ)であり、現存するものだけでも相当に多いが、失われた文献をあわせると、さらに膨大なものになると考えられている。


2.バラモン教とは

   バラモン教は、『ヴェーダ』を聖典とし、天・地・太陽・風・火などの自然神を崇拝し、バラモンと呼ばれる司祭階級が行う祭式を中心とする。
 

  バラモンは特殊階級であり、祭祀を通じて神々と関わる特別な権限を持ち、宇宙の根本原理ブラフマンに近い存在とされ敬われ、生贄などの儀式を行うことができる。なお、バラモンは、正しくはブラーフマナというが、音訳された漢語「婆羅門」のために、日本ではバラモンと呼ばれる。

   バラモン教の最高神は一定しておらず、儀式ごとに、その崇拝の対象となる神を最高神の位置に置く。また、バラモン教では、人間がこの世で行った行為(業・カルマ)が原因となって、次の世の生まれ変わりの運命が決まるとされ、悲惨な状態に生まれ変わることに不安を抱き、無限に続く輪廻の運命から抜け出す解脱の道を求める。

   バラモン教では、階級制度である四姓制があり、それは、①司祭階級バラモンが最上位で、②クシャトリヤ(戦士・王族階級)、③ヴァイシャ(庶民階級)、④シュードラ(奴隷階級)によりなる。これらのカーストに収まらない人々は、それ以下の階級パンチャマ(不可触民)とされた。カーストの移動は不可能であり、異なるカースト間の結婚はできない。

   バラモン教の起源は、紀元前13世紀頃、アーリア人がインドに侵入し、先住民族であるドラヴィダ人を支配する過程で作られたとされる。紀元前10世紀頃に、アーリア人とドラヴィダ人の混血が始まり、宗教の融合が始まった。

   そして、紀元前7世紀から紀元前4世紀にかけて、バラモン教の教えを理論的に深めたウパニシャッド哲学が形成された。そして、紀元前5世紀頃に、4大ヴェーダが現在の形で成立して、宗教としての形がまとめられ、バラモン階級の特権がはっきりと示されるに至った。


3.バラモン教からヒンドゥー教へ

   しかし、これに反発して、今も残る仏教やジャイナ教を含めた、多くの新しい宗教や思想が生まれた。これらの新宗教は、バラモンの支配をよく思っていなかったクシャトリヤに支持された。こうして、1世紀頃には、バラモン教は、仏教に押されて衰退した。

   しかし、4世紀頃にバラモン教を中心に、インドの各民族宗教が再構成されて、ヒンドゥー教に発展し、継承された。この際、主神が、シヴァ、ヴィシュヌへと移り変わったが、バラモン教やヴェーダでは、シヴァやヴィシュヌは脇役であった。このため、バラモン教は、古代のヒンドゥー教と解釈してもよいだろう。

   なお、バラモン教(英:Brahmanism、ブラフミンの宗教)という言葉自体が、実は英国人が作った造語である。それは、先ほど述べたように、仏教以前に存在した、ヴェーダに説かれる祭祀を行うバラモンと呼ばれる祭祀階級の人々を中心とした宗教のことを指す。

   また、英国人は、バラモン教の中で、ヴェーダが編纂された時代の宗教思想を「ヴェーダの宗教(ヴェーダ教)」と呼んだ。これは、バラモン教とほぼ同じ意味だが、バラモン教の方が一般的によく使われる。

   そして、ヒンドゥー教(英:Hinduism)も、英国人が作った造語であり、すでに述べたように、インドにおいて、バラモン教が、民間宗教を取り込んで発展的に消滅して出来た後の宗教を指す。なお、インド人の中では、特にヒンドゥー教全体をまとめて呼ぶ名前はなかった。

   なお、ヒンドゥー教という言葉が、広い意味で使われる場合には、インドにあった宗教の一切が含まれ、インダス文明まで遡るものである。ただし、一般的には、アーリア人のインド定住以後、現代まで連続するインド的な伝統を指す。

   そして、バラモン教の思想は、必ずしもヒンドゥー教と一致していない。たとえば、バラモン教では、中心となる神はインドラ、ヴァルナ、アグニなどであった。ヒンドゥー教では、バラモン教では脇役であったヴィシュヌやシヴァが重要な神となった。

   また、ヒンドゥー教でも、バラモン教と同様にヴェーダを聖典とするものの、二大叙事詩の『マハーバーラタ』・『ラーマーヤナ』、プラーナ聖典、法典(ダルマ・シャーストラ)があり、さらには、諸派の聖典がある。


4.仏教・ジャイナ教

   紀元前5世紀頃に、北インドのほぼ同じ地域で、仏教やジャイナ教をはじめとした、バラモンを否定した新宗教が誕生するが、現在まで続いているのは仏教とジャイナ教だけである。

   仏教は、バラモン教の基本であるカースト制度を否定し、司祭階級バラモン(ブラフミン)の優越性を否定したが、釈迦牟尼(ゴータマ)の死後は、バラモン自身が、仏教の司祭として振舞うなど、バラモン教が仏教を取り込み、バラモンの地位を確保しようした。

   同じように、仏教も、釈迦牟尼の死後は、バラモン・ヒンドゥー教の神を、仏法の守護神などとして取り込んで行った。こうして、仏教とバラモン・ヒンドゥー教は混合していった面がある。なお、その後の仏教は、イスラム教の侵入で、インド国内では完全に消滅したが、現代において、アンチ・カースト活動を背景として再興している。


5.ヨーガの起源・原始ヨーガ

   ヨーガの起源には不明な点が多く、成立時期を確定することは難しい。紀元前2500年~1800年のインダス文明に起源があるとの見解もあるが、十分な証拠はない(遺跡の図画をヨーガの坐法と解釈した)。

紀元前8世紀から5世紀には、ヨーガの行法体系が確立したと思われるが、ヨーガの説明が確認される最古の文献は、紀元前350年から300年頃に成立したと推定されるヴェーダ聖典の『カタ・ウパニシャッド』である。

   ヨーガは、解脱を目指した実践哲学体系・修行法である。心身の修行により、輪廻転生からの解脱(モークシャ)に至ろうとする。森林に入って樹下などで沈思黙考に浸る修行形態は、インドでは、紀元前に遡る古い時代から行われていたという。

   ヨーガの語源は、「牛馬に軛(くびき)をかけて車につなぐ」という意味の言葉(ユジュ)から派生した名詞である。ヨーガの根本経典として有名な『ヨーガ・スートラ』は、「ヨーガとは心の作用のニローダ(静止・制御)である」と定義しているから、牛馬に軛をかけてその奔放な動きを制御するように、人の身体・感覚器官・心の作用を制御・止滅するという意味であろう。

   さて、前に述べた通り、ウパニシャッドにも、ヨーガの行法がしばしば言及され、正統バラモン教では、六派哲学のヨーガ学派に限られずに行われた。祭儀をつかさどる司祭(バラモン)たちが、神々と交信するための神通力を得ようとしたともいわれる。そして、4~5世紀頃に、ヨーガ学派の経典『ヨーガ・スートラ』として、現在の形にまとめられたと考えられている。

   なお、この六派哲学とは、バラモン教において、ヴェーダの権威を認める6つの有力な正統学派の総称であり、①ミーマーンサー学派(祭祀の解釈)、②ヴェーダーンタ学派(宇宙原理との一体化を説く神秘主義)、③サーンキャ学派(精神原理と非精神原理の二元論を説く)、④ヨーガ学派(身心の訓練で解脱を目指す)、⑤ニヤーヤ学派(論理学)、⑥ヴァイシェーシカ学派(自然哲学)である。

   なお、ヒンドゥー教では、これらヴェーダの権威を認める学派をアースティカ(正統派、有神論者)と呼び、ヴェーダから離れていった仏教、ジャイナ教、順世派などをナースティカ(非正統派、無神論者)として区別する。

   しかし、ヨーガの行法体系は、ヨーガ学派だけにとどまらず、正統学派全体さえも超え、インドの諸宗教と深く結びつき、仏教、ジャイナ教、ヒンドゥー教の修行法ともなった。仏教に取り入れられたヨーガの行法は、中国・日本にも伝えられ、坐禅となった。仏教での漢訳語は瑜伽(ゆが)という。


6.古典ヨーガ・ヨーガ学派

   そして、紀元後4~5世紀頃には、今日よくヨーガの根本経典・基本経典といわれる『ヨーガ・スートラ』が編纂された。紀元後3世紀以前という説もあるが、文献学的な証拠は不十分だという。編纂者は、ヨーガ学派の開祖ともされるパタンジャリといわれるが、実際には誰なのかはまだよくわかっていない。

   ヨーガ・スートラは、インドの六派哲学の一つである「ヨーガ学派」の経典であり、サーンキャ・ヨーガの経典であるが、四無量心などの仏教思想の影響も大きく受けた内容となっている。また、ヨーガの基本経典といっても、当時は多くの経典があったが、この経典だけが現存しているにすぎない。

   なお、ヨーガ学派は、ヨーガを初めて明確に定義した。サーンキャ学派と兄弟学派であって、ヨーガ学派は、その世界観の大部分をサーンキャ学派の思想に依拠している。すなわち、ヨーガ学派の行法実践を、サーンキャ学派の世界観が裏付ける形になっている。

   その経典が説く実践の内容は、主に、瞑想によって解脱を目指す静的なヨーガである。個々人の永久不変の本体である「真我」が、世界の万物から独立して存在する本来の状態(真我独存の状態)に戻って、解脱するとしている。

   具体的な修行実践としては、アシュターンガ・ヨーガ(八階梯のヨーガ)といわれ、①ヤマ(禁戒・してはならないこと)、②ニヤマ(勧戒・すべきこと)、③アーサナ(座法・瞑想時の座り方)、④プラーナーヤーマ(調気法・呼吸法を伴った気の制御)、⑤プラティヤーハーラ(制感・感覚の制御)、⑥ダーラナー(凝(ぎょう)念(ねん)・精神の一点集中)、⑦ディヤーナ(静慮(じょうりょ)・集中の拡大)、⑧サマーディ(三昧・主客合一の精神状態)の8つの段階で構成される。

   この『ヨーガ・スートラ』に示される古典ヨーガは、今日では「ラージャ・ヨーガ」(王のヨーガという意味)とほぼ同義であるとされ、ラージャ・ヨーガが、古典ヨーガの流れを継承している。なお、この古典ヨーガ、八階梯のヨーガ、ラージャ・ヨーガの詳細に関しては、『ヨーガ・気功教本』(ひかりの輪刊)に解説したので、それを参照されたい。


7.サーンキャ学派とサーンキャ二元論

   サーンキャ学派の開祖は、紀元前4~3世紀のカピラとされる。その教義が体系化されたのは、3世紀頃の「シャシュティ・タントラ」とされるが、この文献は現存しない。サーンキャとは、知識によって解脱する道を意味している。これに対して、ヨーガは、行為の実習という位置づけがあり、サーンキャ(知識の実習)とヨーガ(行為の実習)を、共に解脱の道として、両者が結びついてセットとなった一面があったと思われる。

   サーンキャ学派の中心思想は、世界の根源として、プルシャ(精神原理・神我)とプラクリティ(根本原質・自性・物質原理)があるとする厳密な二元論である。

   プルシャは、本来は物質的要素を全く離れた純粋精神であり、永遠に変化することのない実体である。アートマン(我・真我)と同義と考えられる。プラクリティは、この現象世界の根源的物質であり、すべての現象は、プラクリティが変異したものとされる。

   そして、世界の全ては、プルシャがプラクリティを観照することを契機に、プラクリティから展開して生じると考えた。具体的には、プラクリティには、サットヴァ、ラジャス、タマスという3つのグナがあり、最初は平衡しており変化しないが、プルシャがプラクリティ=3グナを観照(関心をもって観察)すると、その平衡が破れて、プラクリティから様々な原理が展開し、意識、感覚器官、その対象など、世界が作られていくとする。

   そして、輪廻の苦しみが絶たれた絶対的幸福は、プルシャ(自己)が、プラクリティ(世界)に完全に無関心となり、自己の内に沈潜すること(独存)だと考えた。

   前に述べたように、サーンキャ学派は、ヨーガ学派と対になっており、サーンキャ学派の思想は、ヨーガの行法実践を理論面から裏付ける役割を果たしている。ただし、両学の思想は異なる面もあり、ヨーガ学派は、最高神イーシュヴァラの存在を認める点が、サーンキャ学派と異なる。


8.後期ヨーガ

   古典ヨーガが成立した後、ヨーガの中に様々な流派が成立した。主なものは、ラージャ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、カルマ・ヨーガ、ジュニャーナ・ヨーガ、マントラ・ヨーガ、ハタ・ヨーガなどである。

   この中で、ラージャ・ヨーガが、サーンキャ・ヨーガ、古典ヨーガの系統をひくものである。それぞれのヨーガの流派の概略は、以下のとおりである。

①ラージャ・ヨーガ:
   古典ヨーガの流れを汲んだ、心理操作を中心とする瞑想ヨーガである。

②カルマ・ヨーガ:無私の行為・利他の奉仕を実践するヨーガ
   日常生活を修行の場ととらえ、見返りを要求しない無私の行為・利他の奉仕を行うヨーガである。

③バクティ・ヨーガ:神への信愛のヨーガ
   (人格)神を信じ愛する信仰のヨーガ。この実践者をバクタという。

④ジュニャーナ・ヨーガ:哲学的・思索のヨーガ
   高度な論理的な熟考・分析・思索によって、真我を悟るヨーガである。
一般的に難易度が高いヨーガとされるが、うまく実践することができれば、最も高度なヨーガになり得るという見解がある。

⑤マントラ・ヨーガ:真言のヨーガ
   マントラ(聖なる言葉・真言)を唱えるヨーガである。
   主にサンスクリット語のマントラが広く用いられている。

⑥ハタ・ヨーガ:身体操作を用いる動的なヨーガ
   身体生理的操作から心理操作に入るヨーガであるが、後に詳述する。


9.ハタ・ヨーガ

   この中でも、ハタ・ヨーガは最も新しいものであり、12~13世紀には出現したとされる。ハタ・ヨーガは、力のヨーガという意味であり、ヨーガの密教版ともいうべき内容のもので、12~13世紀のシヴァ教ナータ派のゴーラクシャナータ(ヒンディー語でゴーラクナート)を祖とする。

   ただし、ハタ・ヨーガの経典となると、16~17世紀に出現した著名な『ハタ・ヨーガ・プラディーピカー』や、『ゲーランダ・サンヒター』、『シヴァ・サンヒター』が最初のものとされる。

   このハタ・ヨーガは、サーンキャ・ヨーガとは大きく異なる性格をもっている。サーンキャ・ヨーガの修行は、主に心理的な作業が中心であるが、ハタ・ヨーガは、身体的な修行を心理的な修行の準備段階として重視し、その修練が中心となる。さらに「クンダリニー」という原理を重んじており、体内を流れるプラーナ(気・生命エネルギー)を重視する特徴を持っている。

   具体的には、アーサナ(体位法・体操)、プラーナーヤーマ(調息法・調気法・呼吸法)、ムドラー(印相(いんぞう)・クンダリニーを覚醒させる高度な行法)、シャットカルマ(浄化法)など重視し、サマディ(三昧、深い瞑想状態)を目指し、その過程で、超能力を追求する傾向もある。

   なお、ハタ・ヨーガの思想は、ヒンドゥー教のシヴァ派や、タントラ仏教(後期密教)の聖典群(タントラ)、『バルドゥ・トェ・ドル(チベット死者の書)』の説などと共通点が多い。具体的には、プラーナ(生命の風、気)、ナーディ(脈管)、チャクラ(ナーディの叢)が重要な概念となっている。

   このハタ・ヨーガの詳細に関しては、『ヨーガ・気功教本』(ひかりの輪刊)に解説したので参照されたい。

なお、近代インドでは、ハタ・ヨーガは避けられてきた面があり、ヴィヴェーカーナンダやシュリ・オーロビンド、ラマナ・マハルシらの指導者たちは、ラージャ・ヨーガ、バクティ・ヨーガ、ジュニャーナ・ヨーガのみを語ったという。

   その背景の一つとしては、これは単なる推察ではあるが、ハタ・ヨーガの体系の中に、男女の性的な交わりを活用する、いわゆるタントラ・ヨーガ、仏教でいう左道密教・タントラ密教が含まれていることがあるかもしれない。ただし、ハタ・ヨーガの実践は、性的行為を不可欠とするものでは全くなく、先ほど述べた行法のみを実践することができる。

   一方、現在、「ヨーガ」として世界に広がっているのは、ハタ・ヨーガである。ただし、それは、20世紀に、インドにおいて、近代の西洋の体操を取り入れてアレンジしたものを「ハタ・ヨーガ」の名で世界中に普及させた結果という一面がある。このため、ハタ・ヨーガという名前自体は復権することとなったが、このハタ・ヨーガは、伝統のハタ・ヨーガとは似て非なるものである(場合がある)。


10.クンダリニー・ヨーガ:ハタ・ヨーガの奥義

   さらに、ハタ・ヨーガの奥義とされるのが、クンダリニー・ヨーガである。クンダリニー・ヨーガの行法は、ハタ・ヨーガからタントラ・ヨーガの諸流派が派生していくなかで発達した。

   ムーラダーラという尾てい骨に位置するチャクラ(霊的なセンター)に眠るというクンダリニーを覚醒させ、身体中のナーディやチャクラを活性化させ、悟りを目指すヨーガである。チベット仏教のトゥンモ(内なる火)などのゾクリム(究(く)竟(きょう)次(し)第(だい))のヨーガとも内容的に非常に近い。

   クンダリニー・ヨーガの効果は、他のヨーガに比較しても劇的な面があり、神秘的・超常的な体験・現象や身体的な変調・不調も経験することがある。よって、クンダリニー・ヨーガの実践は、自己流または単独実践は避け、師に就いて実践すべきであるとされている。師とは、単に知識豊富で多少の呼吸法ができる師のことではなく、自身がクンダリニーの上昇経験を持ち、かつそれを制御できる師のことである。


11.ヴェーダーンタ哲学と結びつくヨーガ

   ヨーガの流派の増大は、ハタ・ヨーガをもってだいたい終息し、独創的な思想の展開は衰え、様々な流派・思想の折衷・調和が多くなり、流派的個性が薄れていった。

   そして、哲学においては、ヴェーダーンタ哲学が、インドの本流となり、ヨーガ行法も、ヴェーダーンタ哲学と結びつくようになり、古典ヨーガの哲学であったサーンキャ哲学からは離れていった。ハタ・ヨーガも、ヴェーダーンタ哲学に基づいたものとなっている。

   ヴェーダーンタ哲学は、前に述べた六派哲学の一つであるヴェーダーンタ学派の哲学のことである。この学派は、ヴェーダとウパニシャッドの研究を行う哲学派であり、古代よりインド哲学の主流である。なお、「ヴェーダーンタ」は、「ヴェーダの最終的な教説」を意味し、ウパニシャッドの別名でもある。

   開祖は、ヴァーダラーヤナで、『ブラフマ・スートラ』『ウパニシャッド』と『バガヴァッド・ギーター』を三大経典とする。そして、ヴェーダーンタ学派における最も著名な学者は、8世紀インドで活躍したシャンカラである。そして、彼が説いたアドヴァイタ・ヴェーダーンタ哲学(不二一元論)は、最も影響力のある学説となっている。


12.梵我一如・不二一元論という思想

   不二一元論とは、ウパニシャッドの「梵(ぼん)我(が)一如(いちにょ)」の思想を徹底した思想である。この「梵我一如」の思想とは、梵(ブラフマン)と我(アートマン)が同一であること、または、これらが同一であることを知ることにより、永遠の至福に到達しようとする思想である。古代インドにおけるヴェーダの究極の悟りとされる。

   ブラフマンとは、ヒンドゥー教・インド哲学における宇宙の根本原理である。そして、これが自己の中心であるアートマンと同一であるとされるのが梵我一如の思想である。

   ヴェーダーンタ学派では、ブラフマンは、全ての物と全ての活動の背後にあって、究極で不変の真実、宇宙の源、神聖な知性として見なされ、全ての存在に浸透しているとされる。それゆえに、多くのヒンドゥーの神々は、ブラフマンの現われであり、ヴェーダの聖典において、全ての神々は、ブラフマンから発生したと見なされている。

   そして、梵我一如を徹底する不二一元論では、世界のすべてはブラフマンであり、ブラフマンのみが実在すると説く。他の存在は、ブラフマンが「仮現」したものであり、実在はせず、そのように見えている(錯覚されている)にすぎないとする。

   アートマンとは、ヴェーダの宗教において、意識の最も深い内側にある個の根源を意味し、真我とも訳される。身体の中で、他人と区別しうる不変の実体(魂のようなもの)と考えられる。それは、主体と客体の二元性を超えており、そのため、アートマン自身は、認識の対象にはならないともいわれる。そして、ヴェーダの一部であるウパニシャッドでは、アートマンは不滅で、離脱後、各母体に入り、心臓に宿るとされる。

   一方、仏教では、アートマン(我・真我)の存在は認めず、無我を説き、無我を悟ることが、悟りの道とされる。また、仏教では、梵(ブラフマン)が人格をともなって梵天として登場するが、これまで述べたように、本来のインド思想では、宇宙の根本原理であり、その後に特定の神の名前となったのである。

 

 

2019年5月28日

0037心を安定させる仏教の瞑想とヨーガの行法

以下のテキストは、2017~18年 年末年始セミナー特別教本『仏陀の智慧・慈悲・精進の教え  立ち直る力と願望成就の法則』第3章として収録されているものです。教本全体にご関心のある方はこちらまで。

 


1.はじめに:仏教とヨーガの思想における心の安定の重要性

心の安定は、仏教やヨーガの重要な目的である。まず、ヨーガにおいては、「ヨーガ」という言葉の本来の意味が、心の働きを静めることである。ヨーガの体操や呼吸法は、そのためのステップ・手段にすぎない。

また、仏教が説く「禅定」も、瞑想による心の安定(ないしは静止)といったほどの意味である。煩悩が静まり、心が安定することが、仏教が説く瞑想というものであり、心が安定・静止しない作業は、仏教における瞑想(禅定)ということはできない。

そして、心の安定は、悟りと深い関係がある。心が安定して、集中力が高まると、物事を正しく観る高度な認識力=智慧が生じて、それが煩悩の根源である無智を止滅するからである。これを前章で述べた通り、「禅定と智慧」、ないしは「止と観」という。

なお、普通の人が陥っている無智の意識・心の働きは、自と他(の幸福)を区別する意識であり、それを解消する智慧は、自と他(の幸福)を一体と見る意識であり、それゆえに、万物を愛する大慈悲の心(ないしは四無量心)と一体のものである。すなわち、智慧と慈悲は一体となっている。


2.心の安定による様々な利益

また、前章ですでに述べたとおり、心の安定とそれによる智慧は、無智を根源とする様々な煩悩・過剰な欲望・執着を減少させるだけでなく、現世・世俗における重要な物事の実現などの要となる。

一部繰り返しになるが、心が安定して雑念がない状態は、高い集中力を有しており、目的の達成のために正しい判断ができ、様々なとらわれで心が不安定な場合は、間違った判断をしやすい。不調な時は、苦しみを過大視し、好調な時は過信が生じやすい。そして、ストレスで健康を害し、他との摩擦が強くなって、人間関係を損なう。さらに、心の不安定がひどくなると、失敗への恐れのあまり、消極的になり(引きこもり)、自分の問題を他人に責任転嫁し(自己愛型人格障害・被害妄想)、不正な手段で目的を達成しようするなどの病理的な行動が増える。

一方、過剰なとらわれを和らげて、心を安定させれば、物事を正しく判断し、健康と良い人間関係を保つことができるので、逆に目的を達成しやすくなる。そして、心と頭と体と人間関係の良い状態は、心理学上も、幸福の資源(リソース)とされている。

 

3.心のコントロールの四つの方法

心のコントロールを考える場合の出発点として、最初から、自分の心・感情といったもの自体を自分の意志で自在にコントロールすることが難しいという事実がある。

そこで、心と深く関係する要素である思考・イメージ、行動、身体、環境をコントロールすることで、心をコントロールすることを考えることになる。この四つの視点は、仏教・ヨーガを含めた諸宗教、ならびに心理学など全般を検討した結果である。より具体的にいえば、以下の通りである。
第一に、思考やイメージである。心が安定する考え方やイメージの持ち方を学んで実行する。物の考え方・見方(認知)・イメージは、心・感情と深く連動している。

第二に、日々の行動である。行動と心はお互いに深く関係しあっており、どのように行動するかによって、心・感情が大きく違ってくる。よって、心が安定するような行動に努めることが重要である。

そして、仏教を含めた多くの宗教で、一般に利他の行為が「善行(ぜんぎょう)」といわれ、他を害するような自己中心的な行為を「悪行(あくぎょう)」というが、これは単に倫理的な思想なのではない。善行の習慣が心を安定させ、悪行の習慣が煩悩・欲望を増大させて、心を不安定にするという意味合いがあり、自分の利益になることなのである。逆にいえば、心を安定させて智慧を高めるような行為が、善行・功徳であり、戒律を守ることだと定義することもできるだろう。

第三に、身体の浄化である。身体の健康が心に大きな影響を与えることは、心身医学などで、一般にも知られようになってきたが、仏教・ヨーガなどの東洋思想においては、特に、体の中の気の流れをコントロールすることを重視する。それは、この気の流れが、直接的に人の心・感情とリンクしているからである。

そして、それを整える身体行法を行う。その内容は、①適度な運動・筋肉などのほぐしに加え、②適切な姿勢・座法、③特殊な呼吸法などを含んでいる。気の流れと、気持ち=心は深く連動し、さらに、気は病気=体の健康とも深く関係している。

第四に、環境である。心が安定する「環境」を整えることが重要である。人の心は、五感からの情報に左右される面が非常に大きい。よって、心が安定し清められるような類の見る物、聞く音などがある環境が望ましい。

また、それぞれの場には、その気(外気)があり、それが直接的に、ないしは呼吸などを通して、体の中の内気と混じり合うことになる。よって、清らかな気の場所を得ることが、心と体の安定のために重要である。さらには、外界から取り入れる飲食物の影響も考慮する必要がある。


4.ヨーガの身体行法

ヨーガの伝統的な修行では、戒律を土台として、アーサナ(体操・座法・体位法)、プラーナーヤーマ(呼吸法・調息法・調気法)などの身体行法を経て、心を安定させる瞑想に入っていく。その意味で、このアーサナ・プラーナーヤーマは、瞑想の準備であり、瞑想でもある。

第一に、アーサナは、正確な訳は、座法・体位法である。よって、ヨーガのポーズともいう。これは、単なる体操・体の筋肉等の運動・ほぐしでなく、姿勢の訓練や呼吸法も含む実践である。そして、姿勢・体位と、体の気の流れや心は、深い関係があり、姿勢・体位を整えることは、体の中の気の流れを整える上で非常に重要な要素となる。

第二に、プラーナーヤーマは、正確な訳は、「調気法」である(調息法ともいう)。これは、呼吸法であるが、単なる酸素・空気を十分に取り込むことが目的ではなく、①心と深く関係する呼吸=息の仕方をコントロールするという意味合い(すなわち調息法)と、それに加えて、②心と深く関係する体内の気をコントロールするという意味合い(調気法)があるので、そのように訳される。これは、気の流れの浄化・強化によって、エネルギーの強化、煩悩の浄化、心の安定・集中力の向上をもたらすものである。


5.5つのプラーナーヤーマ

ここでは、気を浄化・強化し、心を静め、集中力を高める以下の5つの呼吸法を紹介する。

(1)基本的な呼吸法:すべての呼吸法の基礎となるもの

(2)体内の左右の気道を浄化する呼吸法

①右気道の浄化 : スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマ
②左気道の浄化 : チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマ

(3)両気道の浄化と集中力を高める呼吸法:スクハプールヴァカ・プラーナーヤーマ

(4)気道を強力に浄化する呼吸法:カパーラ・バーティ・プラーナーヤーマ

(5)特に心を静めるヴァイブレーションの呼吸法:ブラーマリー・プラーナーヤーマ

 

6.基本的な呼吸法

(1) 環境

① 呼吸法を行う室内は、なるべく整理整頓し、換気をして、気を浄化する。
② 意識を高めるシンボルとなる仏画・良い自然の写真、仏教の法具の聖音、
瞑想用のお香などがあれば、なおのこと良い。

(2) 座法

① 安定した座法で座る。理想は蓮華座・達人座などのヨーガ・仏教の行法。
② そうした座法が組めなくても、胡坐(あぐら)や正座など安定していればよい。
③ また椅子の上に座って実践することも可能である。

(3) 姿勢

① 背筋を伸ばし、背中・首・頭が一直線になるようにする。
② 軽く胸を張るが、張り過ぎて反り返らないようにする。
③ 顔はまっすぐ前を見る(よく下向きになるので注意する)。
④ 肩・腕の力を努めて抜く。
⑤ 目に関しては、眠気がない限りは閉じてよいが、眠気があれば、
力を入れずに見開くか、半眼で行う。

(4) 呼吸の仕方

① 口からではなく、両鼻から息を出し入れする。
② 腹式呼吸で、胸だけでなく、お腹も使って行う。
③ 4秒で息を吸い、4秒息を止め(=保息)、4秒で吐く。
慣れてきたら、保息を伸ばしていくが、詳しくは指導員の指導を受けること。

(5) 精神集中

① まずは、出し入れする呼吸に集中するが、それに慣れてきたら、
眉間の所に精神集中を行う方法がある。体の上位の部分に集中すると、
その分、気が引き上がりやすくなる。
② 実行中に、特段の身体的な変化があれば、指導員の指導を受けること。



7.右の気道を浄化する呼吸法:スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマ

次は、体の右側を流れる気道を浄化する呼吸法である。人の体の中には、ヨーガでは7万2千本の気の通り道(ナーディ)があるとされるが、その中で主なものは3つであり、体の右側を通るピンガラ(スーリヤ)気道、左側を通るイダー(チャンドラ)気道、中央(背骨のところ)を通るスシュムナー気道である。このうち右の気道を浄化するものが、スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマである。

右の気道は、怒り・嫌悪の心の働きに関係している。右の気道に詰まりがあると、何かしらの怒り・嫌悪の心の働きが生じるとされる。また、体の症状としては、右の気道に詰まりがあると、右の鼻が詰まる傾向がある。そうした時に、このプラーナーヤーマを実行する。

(1) 環境・座法・姿勢・精神集中

基本的な呼吸法と同じ。

(2) 呼吸の仕方

① 片手の親指ないし人差し指で、左の鼻を閉じて、口からではなく、
右鼻だけで息を出し入れする。
② 腹式呼吸で、胸だけでなく、お腹も使って行う。
③ 4秒で息を吸い、4秒息を止め(=保息)、4秒で吐く。
④ 少し音がするくらい強めに、息を出し入れする。
⑤ 十分詰まりが取れたと感じたら、終了する。その後、できればしばらく、
スクハプールヴァカ・プラーナーヤーマを行い、左右の気の流れを均等にする。

(3) 手の使い方

手が疲れたら、別の手と交替する。顔は絶えずまっすぐ前を見る。
疲れとともに手が下がり、顔が、下や左右のどちらかを向くことが多いので、
そうならないように注意する。
手を使うが、使っていない手を含めて、努めて肩・腕の力を抜く。

 
8.左の気道を浄化する呼吸法:チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマ

次は、体の左側を流れる気道を浄化する呼吸法=チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマである。

左の気道は、無智の心の働きに関係している。左の気道に詰まりがあると、何かしらの無智・愚鈍な意識が生じる。また、体の症状としては、左の気道に詰まりがあると、左の鼻が詰まる傾向がある。そうした時に、このプラーナーヤーマを実行する。

(1) 環境・座法・姿勢・精神集中・手の使い方の注意

スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマと同じ。

(2) 呼吸の仕方

① 片手の親指ないし人差し指で、右の鼻を閉じて、口からではなく、
左の鼻だけで息を出し入れする。
② 腹式呼吸で、胸だけでなく、お腹も使って行う。
③ 4秒で息を吸い、4秒息を止め(=保息)、4秒で吐き、これを繰り返す。
④ 少し音がするくらい強めに息を出し入れする。
⑤ 十分詰まりが取れたと感じたら、終了する。その後、出来ればしばらく、
スクハプールヴァカ・プラーナーヤーマを行い、左右の気の流れを均等にする。


9.スクハプールヴァカ・プラーナーヤーマ

これは、左右の両気道を交互に浄化する呼吸法である。左右の気道とも浄化されると、気のエネルギーが中央気道に集中することになる。中央気道に気が集中し、中央気道が浄化されると、心が静止して、深い瞑想状態に入っていくといわれている。よって、このプラーナーヤーマは、集中力を高める効能が高く、特に保息時間を長くすることができていくと、その効果が強くなる。

また、スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマないしはチャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマを行った後は、このスクハプールヴァカ・プラーナーヤーマを行い、左右の両気道の気の流れを均等にすることが望ましい。スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマないしはチャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマは、右ないし左の気道を浄化するが、それだけだと、左右のいずれかの気道に気が偏る可能性があるからである。

(1) 環境・座法・姿勢・精神集中・手の使い方の注意

スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマと同じ。

(2) 呼吸の仕方

① 右手の人差し指と中指は、額に当てて、
② 右手の親指で、右鼻をふさぎ、左鼻から息を入れ、
③ 右手の薬指と小指で、左鼻をふさいで息を止め、
④ 右手の親指を離して、右鼻を空けて右鼻から息を出し、
⑤ 右鼻から息を入れて、
⑥ 右手の親指で、再び右鼻をふさいで息を止め、
⑦ 右手の薬指と小指を離して、左鼻を空けて左鼻から息を出し、
⑧ 最初に戻って、左鼻から息を入れる。以上のサイクルを繰り返す。
⑨ 4秒で息を吸い、4秒息を止め(=保息)、4秒で吐く。
⑩ 慣れてきたら保息の時間を延ばしていくが、詳しくは指導員の指導を受けること。

※右手が疲れたら、左手に替えてよいことは、他の呼吸法と同じ。


10.カパーラ・バーティ・プラーナーヤーマ

このプラーナーヤーマは、特に気道を強力に浄化するとともに、気を上昇させる効能がある。気が気道を上昇すると、気道の詰まりを浄化し、詰まりによって生じていた煩悩を取り除き、意識を高めることができる。

(1) 環境・座法・姿勢・精神集中の注意

基本的な呼吸法と同じ。

(2) 呼吸の仕方

① 口からではなく、両鼻から息を出し入れする。
② 腹筋を使って、短く鋭く、息を出し入れし、出息と入息を繰り返す。
保息は行わない。「鍛冶屋のふいごのように」ともいわれる。
③ 出息と入息は20回ほど繰り返して、1セットとして終了する。
④ 少し休んだら、また繰り返す。

(3) 注意

① 気を強く引き上げるので、体が熱くなったり、体の一部に多少の痺れを感じたり、
多少ぼーっとした感じになることがある。
② 不快な感じが生じたら、出息・入息の回数を減らして加減するか、中止して、
指導員の指導を受けること。


11.ブラーマリー・プラーナーヤーマ

このプラーナーヤーマは、自分で作り出す振動音のヴァイブレーションによって、心を静めて、深い意識状態・瞑想状態に入っていくものである。瞑想に入る準備の呼吸法ということもできる。これに熟達するならば、最も深い瞑想状態であるサマディに入ることができると経典に書かれている。

(1) 環境・座法・姿勢・精神集中の注意

基本的な呼吸法と同じ。

(2) 呼吸の仕方

① 口からではなく、両鼻から息を出し入れする。
② 十分に息を吸ったら、蜂の羽音のような「ブーン」といった音を立てながら、
なるべく長く息を出していく。
③ これを繰り返す。

 

 

 

2019年5月29日

0038テーマ別教本 《第1集》『ヨーガの思想と実践』

 目 次


第1 仏教とヨーガの思想の根幹と実践の基本
(2018年夏期セミナー特別教本『仏教・ヨーガの根幹の思想と実践』 第2章)

1.ヨーガの本来の意味
2.ヨーガの本来の目的
3.ヨーガの古典的修行体系:八段階の修行


第2 ヨーガとは何か:真我の思想
(2016年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学と人類の可能性』 第1章)

1.ヨーガの原意:心の働きを止滅すること
2.高次元の心で、低次元の心を止める
3.大我:宇宙意識
4.寂静我:涅槃寂静
5.真我とは
6.究極の境地は言葉では説明できない
7.サーンキャ・ヨーガ、古典ヨーガの成立
8.後期ヨーガの成立、特にハタ・ヨーガに関して


第3 気の霊的科学:人類の可能性
(2016年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学と人類の可能性』 第2章)

1.気(生命エネルギー)の霊的科学とは
2.気の通り道:気道に関して
3.気道の交差点:経穴、気道の密集点:チャクラ
4.気の強化と気道の浄化の恩恵:心身の健康・悟り
5.ヨーガのナーディの思想
6.ヨーガのチャクラの思想
7.仏教のナーディの思想
8.仏教のチャクラの思想
9.チャクラでの気道の詰まりが煩悩を生じさせる
10.気道の浄化の重要性:悟り・解脱の道
11.気と気道の3つの状態
12.各チャクラと各気道と煩悩の関係
14.各チャクラの3つの詰まり
15.気道の浄化の方法:身体行法・瞑想・戒律・聖地
16.善悪を感じる身体への変革:人類の可能性
17.ヨーガや仏道修行の様々な恩恵:高い集中力など


第4 日常生活での気道の浄化
(2016年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学と人類の可能性』 第3章)

1.初心者にも可能な気道の詰まりのチェック
2.鼻の詰まり具合と連動する左右の気道の状態
3.右の気道を浄化する:スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマ
4.左の気道を浄化する:チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマ
5.体の各部の力を抜く
6.肩・腕の力を抜く
7.胸や腹部をほぐす
8.両方の気道を浄化:スクハ・プールヴァカ・プラーナーヤーマ
9.気道の浄化のダメ押し:カパーラ・バーティ
10.行法をしながら、内省をする


第5 《参考資料》クンダリニーとチャクラに関して
(2016年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学と人類の可能性』 参考資料)

1.クンダリニーについて
2.主な7つのチャクラに関して


第6 ヨーガの歴史と全体系

(2017年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学とヨーガの歴史と体系』 第2章)

1.ヨーガを生んだインドの古代宗教
2.バラモン教とは
3.バラモン教からヒンドゥー教へ
4.仏教・ジャイナ教
6.古典ヨーガ・ヨーガ学派
7.サーンキャ学派とサーンキャ二元論
8.後期ヨーガ
9.ハタ・ヨーガ
10.クンダリニー・ヨーガ:ハタ・ヨーガの奥義
11.ヴェーダーンタ哲学と結びつくヨーガ
12.梵我一如・不二一元論という思想


第7 心を安定させる仏教の瞑想とヨーガの行法
(2017~18年年末年始セミナー特別教本『仏陀の智慧・慈悲・精進の教え』 第3章)

1.はじめに:仏教とヨーガの思想における心の安定の重要性
2.心の安定による様々な利益
3.心のコントロールの四つの方法
4.ヨーガの身体行法
5.5つのプラーナーヤーマ
6.基本的な呼吸法
7.右の気道を浄化する呼吸法:
スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマ
8.左の気道を浄化する呼吸法:
チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマ
9.スクハプールヴァカ・プラーナーヤーマ
10.カパーラ・バーティ・プラーナーヤーマ
11.ブラーマリー・プラーナーヤーマ

 

第8 総合解説:気の霊的科学
(2017年夏期セミナー特別教本『気の霊的科学とヨーガの歴史と体系』 第1章)

1.気とは何か
2.気は実在するか
3.気の通り道:気道に関して
4.気道の交差点:経穴、気道の密集点:チャクラ
5.気の強化と気道の浄化の恩恵:心身の健康・悟り
6.ヨーガのナーディとチャクラの思想
7.チャクラでの気道の詰まりが煩悩を生じさせる
8.各チャクラにおける気道の詰まりと煩悩の関係
9.気道の浄化・気の強化がもたらす様々な恩恵
10.気を浄化・強化する身体行法
11.気を強化・浄化する精神的な修行:戒律・瞑想
12.気の強化・浄化を助ける環境・外気を整える(1)
13.気の強化・浄化を助ける環境・外気を整える(2)
14.気の強化・浄化を助ける食事:過食を避ける
15.肉食の是非は? 極端を避ける
16.冷たい物・お酒・刺激の強い物
17.東洋の代表的な食養の思想
18.気の浄化・強化に役立つ身に着ける物

 

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2022年1月20日

1510ヨーガの真我の思想と最新の認知科学

以下のテキストは、2019~2020年 年末年始セミナー特別教本『最新科学が裏付ける仏教・ヨーガの悟りの思想』第2章として収録されているものです。教本全体にご関心のある方はこちらまで。

 


1.ヨーガが説く真我の思想と人間の苦しみの原因

ヨーガでは、真我というものを説く。サンスクリット語では、アートマン(Ātman)である。ヴェーダの宗教(バラモン教・ヒンドゥー教)で使われる用語であり、意識の最も深い内側にある個の根源などを意味する。

わかりやすくいえば、真実の自分、自分の本質といった意味だが、重要なことは、心とは異なるものであることだ。本来、真我は、純粋な認識主体であって、思考・感情・意志・欲求などの心理的な要素は一切含まない。絶えず移り変わる心(の諸要素)と異なり、真我自体は決して変化することがなく、永久不変の平安の状態にあるとされる。

ところが、ヨーガの根本経典(ヨーガ・スートラ)によれば、普通の人の場合は、真我が、心を自分自身と混同・錯覚しているとする。そして、真我が、心を自分自身と錯覚して一体となっているので、心が苦しむとともに、真我が苦しむ状態に陥っている。本来は、真我が認識の主体であって、心は、体や外界と同じように、真我が認識している対象にすぎない。

しかし、映画の観客が、映画の主人公に熱中して、主人公と精神的に一体化すると、映画の主人公の苦しみを、そのまま自分の苦しみのように感じるのと同じように、真我は、心と同化して心の苦しみを感じているのである。

映画のたとえを使って、さらに説明すれば、この映画の名前は、21世紀の宇宙・地球・日本であり、それは三次元立体映画であって、その中の主人公は「私」という名前であり、観客席は「私」の体の頭部にあって、観客であるあなたは、体はなく、単なる認識する能力を持った意識である。

そして、あなた=真我は、「私」の心や体を動かしてはいない。あなたは純粋な観客・観察者として、それを見ているだけである。しかしながら、あなたは、「私」の心を自分だと混同・錯覚し、「私」の心や体とともに苦しむのである。

(※「真我」について:なお、ひかりの輪では、自分自身の中に永久不変な「真我」があるとする説を絶対視したオウムの教訓として、真我を認めるヨーガの修行では、場合によっては自我意識が肥大化し自己を神であると考える意識状態(いわゆる魔境)に入る恐れがあることを指摘し、伝統仏教にならい自己を特別視しない無我説を重視している)


2.ヨーガが目指す心の制御と真我の覚醒

こうした思想に基づいて、ヨーガが目指すものは、真我が心(や体)を自分自身と錯覚した状態から抜け出して、独立することである。これを真我独存位という。真我独存位に至ると、永久不変の平安の状態に至るとされる。そして、この状態に至れば、インド思想が説く輪廻転生からの解脱(モークシャ)をもたらす。なぜ解脱できるかというと、輪廻・生まれ変わりの原因も、真我が、生き物の心(や体)に執着して、それを自分の物と錯覚することであるからだ。

そして、真我独存位に至るために、ヨーガは、心の働きを止滅することを目指す。実は、心の働きを止滅することが、まさに「ヨーガ」という言葉の本来の意味である(ヨーガは体操ではない)。広くは、心の制御・コントロールとも解釈できるが、ヨーガの根本経典であるヨーガ・スートラには、心の働きを止滅することだと明記されている。

これはなぜかというと、真我が、心を自分自身と混同・錯覚している中で、心の働きを止滅させるならば、真我のみの状態となり、真我はその本来の在り方に戻りやすくなるからである。そして、心の働きを止滅することが、ヨーガと呼ばれるとともに、サマディと呼ばれる深い瞑想・集中の状態である。この詳細に関しては、ひかりの輪のテーマ別特別教本第1集『ヨーガの思想と実践』を参照されたい。

(※輪廻転生について:なお、ひかりの輪は、大乗仏教等の宗教・宗派ではなく、思想哲学の学習教室であり、来世や輪廻転生については、否定も肯定もしないという立場(中道)である)。


3.最新の認知心理学と真我

最新の認知心理学・認知科学は、ヨーガの真我と心の関係の思想と、よく似た見解を持っている。それによると、全てないしほとんど全ての思考・感情・意志・欲求は、私たちの意識ではなく、無意識の脳活動が司って形成しているものである。そして、私たちの意識は、実際には、無意識から上ってくるそうした心理作用を、単に見ているだけの「傍観者」であるが、それを自分のものだと錯覚しているという。

これは、意識が単なる観察者で、心理作用は意識のものではないという点で、驚くほど、ヨーガの説く真我と心の関係と一致している。真我は、純粋な観察者・認識の主体であり、心とは異なるものである。また、仏教の無我の思想とも一致している。仏教は、真我説は説かないが、心を含めた一切は本当の私・私の物ではないとする無我の思想を説く。

そして、科学者によれば、過去数十年の目覚ましい認知科学の発展の結果として、従来の伝統的な人の意識・脳・心・精神の概念は崩れ去ろうとしているという。それはガリレオが唱えた地動説のように、人類の人間観・世界観に、革命的な変化をもたらす。

これまでは、「私」の心・体の中心に、「意識」が存在し、人は自分の意志で、心や体を動かしていたはずだった。ところが、科学が描く新しい「意識」や「脳」の概念は、ガリレオの地動説が、地球を宇宙の唯一の中心的な存在から、宇宙のごくありふれた無数の星の一つにしてしまったのと同じような意味合いを持っている。

すなわち、「意識」は、「私」の中心的な存在ではなく、「私」のごく端っこにいる存在であって、しかも「私」に起こることのごく一部を見ているだけの存在であるというのである。こうして、再び科学は、人類の自己中心的な欲求と、それに基づく固定観念を崩そうとしているのだ。


4.自己中心性を失った代わりに得る壮大なもの

地球を世界の中心とした天動説は、人類の自己中心的な欲求を満たせたかもしれない。しかし、それを崩壊させた地動説が与えたものは、天動説による地球を中心とした狭苦しい世界とは比較にならない、はるかに壮大なものだった。

それは、現在の科学でもその大きさが決定できないほどの広大な宇宙空間(無限である可能性もあるらしい)と、その中の無数の銀河・星々であり、いまだ発見されていないが地球と似た知的生命体が存在する星の可能性さえも内包しており、その中で人類は、単に観察するだけではなく、徐々にではあるが、地球以外の天体に旅をし始めているのである。

同じように、私達=「意識」が、「私」という小世界の中心的な存在から、ごく周辺の存在に格下げになったとしても、それを前向きに受け止めて活用するならば、その代わりに、「意識」は、はるかに壮大なものを得ることになる。それについて次に述べたいと思う。


5.「私」に過剰にこだわらない生き方への転換へ

認知科学者が言う通り、自分=意識が、「自分の心や体」を主導しておらず、単に自分や他人の心や体の「観察者」であるならば、それは、ヨーガの真我説、仏教の無我説の人間観・世界観を裏付けることになる。

そして、この意味合いは、極めて重要だと私は思う。というのは、その見解を確信すれば、自分と他人を過剰に区別し、自分だけを偏愛する意識(自我執着)から解き放たれやすくなるからだ。すなわち、悟りの境地に近づくことが容易になる可能性が高まるのである。

まず、人が、自分と他人を区別する理由の一つは、自分の体は他から独立している自分の自由意志で自分が動かしており、同じように、他人の体は自分から独立した他人の自由意志によって他人が動かしていると解釈するからである。これは、自と他が別のものとして明確に区別された認識をもたらす。

しかし、認知科学の見解によれば、真実は、あなたの意識は、「私と呼ばれる体の脳」に存在してはいるが、「私と呼ばれる脳や体」を動かしておらず、それを含めた「21世紀の世界・日本」と呼ばれる三次元立体映画を鑑賞しているだけである。同じように、彼の意識は、「彼と呼ばれる体の脳」に存在しているが、「彼と呼ばれる脳や体」を動かしてはおらず、同じ映画を観察・鑑賞しているだけである。

そして、あなたの意識も彼の意識も、その映画の観客であって、「私」や「彼」そのものではない。「私」ないしは「彼」だけに過剰にこだわった見方をする義務も利益もない。映画の観客として、「私」や「彼」だけに限らず、様々な者が登場する「映画全体=世界全体」を広く楽しむ権利がある。普通の映画を見に行った際には、誰もが、そうするのではないか。

実際に、「私」や「彼」に過剰にこだわる映画の見方をすれば、その映画は相当に不快なものになる。なぜならば、その映画のシナリオでは、「私」や「彼」は、必ずしも思い通りの人生を送ることにはなっていない。さらには、映画の終盤では、老いて病んで死ぬというバッドエンドを迎えることになっている。だから、「私」ないし「彼」を唯一重要な登場人物だと思い込むことは、楽しい映画の見方ではない。リラックスしながら、様々な登場人物を含んだ映画全体を広く楽しむ方がいい。

そして、「私」という一人の登場人物に過剰にこだわらずに、映画全体を広く楽しむという映画の見方(人生の送り方)は、神の万物への愛(博愛)とか、仏陀の万人に平等な大慈悲といわれるものに通じるものである。


6.精神と脳と体は密接不可分

最新の脳科学は、他にも、仏教やヨーガの思想と合致し、悟りの境地に近づくことを助ける重要な事実を、いろいろと明らかにしてきた。

例えば、デカルトのような昔の科学者は、人の脳と精神は独立しており、精神が脳を動かし、体を動かしているとしたが(有名なデカルトの物心二元論)、現代の科学は、様々な研究・実験・証拠を通して、それを否定するに至っている。人の精神の活動は、明らかに脳の活動と密接不可分であって、脳は体の一部として、体と密接不可分に連動している。よって、体や脳の状態が変われば、我々の思考・感情・欲求は、大きな影響を受けるのである。

この事実は、素人の科学の知識しかなくても、よく考えればわかることかもしれない。しかし、普通の人の常識としては、自分たちに、体の状態からは相当に独立した、確たる自分の意志・感情があるかのように錯覚している。デカルトの物心二元論的な考えは、私たちの常識には合致しても、もはや科学的な事実ではないのである。

さらに、体の中のどこが高次の知的機能を有しているかも、十分に明確にはなっていない。脊髄にも、意外と高度な知的機能が存在する面もあるという。これは、脳とは何なのかという定義自体の問題かもしれない。仮に脳を高次の知的機能をつかさどる臓器というように広く定義するならば、脳の範囲は広がるかもしれない。

そして、仏教やヨーガは、心と(脳と)体の関係を特に強調する思想である。一定の姿勢(座法)や一定の呼吸の仕方を保ちながら瞑想を行うなどの修行法は、まさにこの思想に基づいている。ヨーガは、特に身体と心の状態の一体性を強調し、体のコントロールによって心のコントロールを目指す思想である。特に、ヨーガの中でもハタヨーガや、仏教の中では密教の修行に、その傾向が強い。


7.脳と環境も密接不可分

さらに、第1章で述べたとおり、脳は、体に加えて、体外の環境とも密接不可分に連動している。情報化社会である現代では、特にその傾向は強い。毎日目にするマスメディア・インターネット・街並みや、その様々なお店の様々な商品から、膨大な情報を脳は吸収している。それは意識が自覚しているものもあるが、無自覚で吸収するものも膨大である。そのため、科学者の中には、環境もすべて脳神経の一部であるという主張(いわゆる唯脳論)とか、環境の脳化とか、環境脳という概念を主張する人もいる。

ここでは、「人に自由意志というものがあるのか」という昔からの問題がかかわってくる。自由意志とは、それぞれの個人が、他から独立した自由な意志を持ち、それによって自分の行動を選択しているかということである。

そして、近代民主主義社会の思想の下に生きる私達の常識では、自由意志はあることが前提となっており、それに基づいて社会の制度・法律もできている。個々人の行動は、個々人の自由意志によるものであり、本人以外の何者かに強いられたり、操られたり、誘導されたものではないから、個々人の行動の責任は個々人にあるというものである。

これに対して、現在の認知科学や心理学の主流の見解は、自由意志は全くないか、あっても非常に乏しいというものである。そもそも、無意識の脳活動が、私たちの思考・感情・意志・欲求の形成を主導しており、意識はそれにアクセスできず、そうなった理由や過程は、まるでわからない。にもかかわらず、それを「自分のものだ」と意識は思い込んでいる。すなわち、自分の中の他者に操られていることに気づいていない。

そして、それにさらに輪をかけるのが、現代の情報化社会の加速である。毎日のあふれる情報は、無意識のうちにも脳に入り込んでいく。そのため、意識が全く気付かないうちに、私たちの精神に影響を与えている。こうして、精神と脳と体と環境が、以前にもまして、密接不可分に影響し合っているのが現代社会である。この知見もまた、仏教やヨーガが説く、万物が相互依存であって一体であるという、一元的な世界観と合致している。

 

8.悟りを助ける脳科学・心理学の見解

そして、ヨーガや仏教の思想や瞑想を実践した者の視点から見るならば、こうした最新の科学的な知見をフルに活用するならば、ヨーガや仏教の意識感・人間観・世界観を確信することの手助けとなる。その結果として、悟りの境地に至る瞑想を助け、以前よりも悟りの境地に近づきやすくなる可能性もあると思われる。

最新の科学の知見は、依然として常識と解離しているが、時とともに、科学の知見が常識になっていくのが人類社会である。革命的な理論ほど、常識による固定観念の抵抗を強く受けるだろうが、長期的な視点からいえば、それは時間の問題にすぎない。キリスト教の人間・地球中心主義の思想のために、当初は激しく抵抗を受けたガリレオの地動説が、その後認められたことからも、よくわかるだろう。

そして、最新科学が発見した精神・意識・脳・体・環境に関する真実が、常識となって深く浸透する頃には、人類の「意識」には、大きな変革が起こる可能性も期待できるのではないかと私は思う。

現在の人々には、この世界は、何もかもがバラバラに見えて、狭苦しい自己と、他者・外界に大きく分かれている。しかし、今後は、私達の「意識」は、科学が検証した事実を学ぶ中で、「私」や「他人」や「環境」などを含めた全てが一体となった壮大なつながりを持った世界があることを認識して、受け入れやすくなるだろう。これは、ヨーガ(ないしは仏教)が説く「意識の拡大」・「宇宙意識」・「悟りの境地」への接近の土台となることは間違いない。

なお、世界の全てが一体であるとするならば、「本当の私は、世界全体である」ということもできるだろう。「世界の一切が本当の私ではない」と説く無我や真我の思想は、実際のところ、これと矛盾するものではない。というのは、世界の何物も自分ではないという認識があればこそ、世界の何物にも執着することなく、世界全体に意識が広がりやすくなる、ということであるから。その結果として「世界全体が私」ということができる心理状態に近づくということである。

話を元に戻すと、仏教・ヨーガの瞑想修行者が、最新の科学の知見をフルに活用するならば、「意識」が、偏狭な自我執着から解き放たれて、壮大な宇宙に精神的に広がる可能性は高くなるだろう。これまでの習慣である「狭い私」の固定観念がすぐに解消はしないだろうが、科学信仰ともいうことができる現代人の意識には、科学の見解は重要な影響をもたらし、固定観念を突き崩すスピードは上がっていくだろう。

そして、「私」の中の中心的な存在から周辺に回された「意識」が、勇気をもってそれを前向きに受け止めて活用したならば、失ったものの代わりに得るものは、実に壮大なものになる。それは、意識の深い安定と、大きな広がりである。そもそも意識には、形や大きさはない。狭い世界に対する執着から精神的に解き放たれるならば、それは宇宙大ともいえる無限の可能性を秘めている。

 

 

 

 

1511呼吸法の科学と実践:健康増進・集中力・悟り 

以下の講義のテキストは、2020~2021年 年末年始セミナー特別教本『ヨーガ・仏教の修行と科学 人類社会と宗教の大転換期』第1章 として収録されているものです。教本全体にご関心のある方はこちらまで。

 

1.今話題の呼吸法

今人気のアニメ『鬼滅の刃』では、人間離れした力を持つため、主人公らが「全集中の呼吸」という呼吸法を取り入れ、それによって、血液中の酸素濃度を高め、高い集中力と身体能力を手にすることができるなどという話が設定されている。

本稿では、呼吸法の効果と実践上の注意点に関して、医学的な見地から紹介するとともに、数千年もの間、呼吸法を取り入れてきたヨーガの見地からも紹介したいと思う。

 

2.ゆっくりと吐く呼吸法:健康増進の効果

呼吸法は、ヨーガや太極拳に限らず、最近では格闘技やスポーツで重視されるようになった。自律神経に詳しい小林弘幸・順天堂大教授は、①ゆっくり吐く呼吸を心がけることで、自律神経の副交感神経の活動が上がり、血流が良くなり、②血流が良くなると、腸の活動や免疫の働きも活性化し、長生きにつながるという。

小林教授が勧めるのは、吸気と呼気の長さを1対2にして、深い呼吸をする方法である(長生き呼吸法)だ。たとえば2秒吸って4秒吐く。そして、1日3分間でも時間を決めて毎日行う。こうして、普段おざなりになっている呼吸に意識を向けることが大事だという。

教授は、特に最近は新型コロナウイルスの流行で、現代人のストレスはますます高まり、呼吸も浅くなっているのではないかと懸念されている。ストレスが高まると、呼吸は浅くなり、逆にゆっくり吐く呼吸法で、ストレスを解消できるということである。

このメカニズムを詳しく説明すると、呼吸によって取り込まれる酸素は、血液に溶け込み、毛細血管を経由して全身の細胞に届けられる。よって、ゆっくりと深く呼吸をすれば、肺に取り込まれる酸素量が増え、そのため、酸素を運ぶ全身の血流量も増加する。

その結果、全身の細胞の活性化につながる。全身の細胞は、酸素を取り込み、二酸化炭素を排出して、新陳代謝を行っている。よって、体の回復を早くさせたり、力を引き出したりすることができる。

小林教授の研究では、ゆっくりと深く呼吸をすることで、すぐに毛細血管の血流量がアップすることが確認されている。よって、同教授は「呼吸には一瞬で体の状態を変える力があり、呼吸法ほど即効性の高い健康法はありません」と主張する。

また、ゆっくりと吐くことによって、リラックス効果のある副交感神経が、刺激・活性化される。同教授の研究では、ゆっくりと吐く呼吸(吸気2秒・呼気4秒)によって、通常の呼吸(吸気1秒・呼気1秒)に比較して、自律神経の副交感神経が2・5倍も活性化したことが確認されている。繰り返しになるが、副交感神経が活性化すると、リラックスすることができるのである。

また、春木豊氏(早稲田大名誉教授)は、体の使い方と心の状態には深い関係があるとする身体心理学を提唱しているが、同氏も科学的な実験を通して、ゆっくり吐く呼吸法の効果を確認している。

次に、①腹式呼吸で呼気を長く行う、②腹式呼吸で呼気を短く行う、③普通に深呼吸するという三つのケースの実験をして、それぞれの実験前後の血圧・心拍数を計ると、①のケースが、血圧・心拍数の下がり方が最も大きく、かつ下がった状態が一番長く持続したという。

こうして、長い呼気が、血圧を下げ、副交感神経を優位にして、生理的な安定をもたらすことが確認された。実際に、被験者に質問しても、長い呼気では、短い呼気や深呼吸よりも、落ち着いた気分、くつろいだ気分になる傾向が大きかったという。

さらに、意識的に呼気を長くすることは、「タイプA性格」という、怒りやすい・焦りやすいという性格の人たちに効果があり、「時間的切迫感」「焦りを感じて落ち着かない」というタイプAの性格的な傾向が和らぐことも確認されたという。

そして、他にもストレスと呼吸の深い相関関係も実験で確認されている。被験者にストレスとなる作業をさせると、安静時と比較して、呼吸の時間が短くなる傾向が見られた。特に、息を吸った後に、息を吐くまでの間が短くなったという。ストレスがあると、ゆったりした呼吸ができないようである。

また、ゆっくりした呼吸と速い呼吸で、心拍数と呼気終末二酸化炭素(PetCO2:PetCO2は、呼吸によって吐き出された気体中のCO2の分圧(割合))の量を比較した実験を行うと、ゆっくりした呼吸では、心拍数が下がり、呼気終末二酸化炭素の値が上がったという。呼気終末二酸化炭素は、ストレスがあるときは値が下がるので、ゆっくりした呼吸によって、ストレスが減少したことを示している。

以上の結果から見て、呼吸をおざなりにせず、良い呼吸の習慣を作ることは重要である。私達は、呼吸を無意識に1日2万回以上しているといわれる。しかし、日常生活では呼吸を意識することはなく、おざなりにしてしまいがちだ。しかし、実際には、呼吸の質の良し悪しによって、さまざまな体調不良の原因にもなる。

一方、小林教授によれば、1日数分でも、上記のゆっくり吐く長生き呼吸法を行えば、誰でもゆっくりと深い呼吸ができるようになるという。ただし、これは、1日だけやればいいというものではなく、毎日続けることが肝心である。ヨーガの修行でも、良いことを繰り返し行い習慣化する重要性(修(しゅ)習(じゅう))が強調される。

 

3.呼吸法の様々な健康効果

ゆっくりと吐く呼吸法は、自律神経と腸内環境を同時に整えることができる。前にも述べたように、呼吸のときは、吐く時間を長くする。まず、前に述べたように、吐く時間を長くすると、自律神経の中でリラックス効果のある副交感神経が刺激されて、自律神経を整えることができる。

また、ゆっくりと吐く深い呼吸法を行う際には、腹式呼吸で行う。お腹に深く息を入れで出すのである。これは、胃腸を運動させて、マッサージする効果がある。小林教授によれば、胃腸のマッサージによって、腸内環境が良好になるという。さらに、前に述べた通り、全身の血流量も増える。

そのため、ゆっくりと吐く深い呼吸法によって、免疫力の向上も期待できる。というのは、免疫細胞の7割は腸内に存在しており、さらに、血流・血液循環が良ければ、免疫細胞が体全体を巡ることができる。さらに深い呼吸をすると、血流の増大とともに、軽い運動にもなるために、体温が若干向上する(体が温まる)。免疫力は、体温が高いほど向上する。

こうして、ゆっくりと吐く深い呼吸は、①体内の酸素量・血流の増大・血液循環の改善、②自律神経の改善(副交感神経の活性化によるストレス解消・リラクセーション)、③腸内環境の改善、免疫力の向上をもたらす。結果として、小林教授によれば、①疲労回復、②さまざまな生活習慣病の改善、③ここ一番での集中力の向上・メンタルの安定・仕事のパフォーマンスアップなどにも有効だという。

そして、始めた日から頭がスッキリするなど、気分が良くなることがあり、それを毎日の習慣にすれば、意識しなくても呼吸がゆっくりと深い呼吸に変わっていき、病気や不調を遠ざけてくれる健康体を築くことができるということになる。この意味で、手っ取り早い健康法ではないかと思われる。

 

4.ヨーガの呼吸法による集中力・精神安定効果

スペインなどの研究チームが発表した2015年の論文によれば、ヨーガの上級者は、深い呼吸により、大脳の「島(とう)皮(ひ)質(しつ)」と「下(か)前(ぜん)頭(とう)回(かい)」と呼ばれる部分が活性化したという。島皮質は、自分の体の自律神経や心拍などを監視し、下前頭回は、欲望や雑念を抑え、自分を制御することに関わる場所である。よって、深い呼吸で集中力が高まり、物事に動じなくなっていることがうかがえる。

脳科学者の池谷(いけがや)裕二・東京大教授も、「呼吸は、脳活動を間接的に変化させられる。集中力を高めるために、呼吸を利用するのは理にかなっている」という。すなわち、呼吸法を鍛錬することで、集中力を高めるために必要な脳の機能を活性化させることができるということだ。

ただし、ここでの「ヨーガの上級者の深い呼吸」とは、単なるゆっくり吐く深い呼吸ではない。ヨーガの呼吸法には、吸う息、吐く息に加えて、息を止める作業(保息)が含まれている。そして、集中力に関していえば、武術家・スポーツ選手などが経験するように、人は何かに深く集中している時には、息をしていないことが多い。こうして、非常に深い集中と保息には、深い関係があるのである。

また、深い集中力は、欲望や雑念を制御することと深い関係がある。様々な欲望・雑念があれば、深い集中はできないからである。こうして、ヨーガの呼吸法は、深い集中力を与えるが、これは、ヨーガの本来の目的である欲望の制御を含めた、心の制御による悟り・解脱といったことに繫がるからである。

 

5.ヨーガの呼吸法「プラーナーヤーマ」の意味合い

ヨーガの呼吸法は、プラーナーヤーマといわれる。文字通りに訳すと、気を制御する方法(調気法)となる。「プラーナ」とは、サンスクリット語で目に見えない生命エネルギーである「気」を意味する。よって、ヨーガの呼吸法は、この「気」を制御するためのものなのである。

それがなぜ、集中力・精神の安定・心の制御に役立つのか。それには、ヨーガを含めた東洋思想に広く説かれる「気」の霊的科学の思想がある。ここでは、これを呼吸法との関連に絞って以下に説明する。

なお、気の霊的科学の全体は、『テーマ別教本第1集「ヨーガの思想と実践」』や『2016年夏期セミナー特別教本「気の霊的科学と人類の可能性」』を参照されたい。

 

6.プラーナとナーディとチャクラについて

「気」とは、体の内外に存在して流動する目に見えないエネルギーである。狭い意味では、生命エネルギーであり、広い意味では、物理的な存在を含めた万物を構成する根源的なエネルギーという意味もあり、ヨーガでは、「プラーナ」と呼ぶ。また、気には、体の外にある外気と、体の中にある内気があり、内気にも様々な種類があるとされる。

そして、体内には、気が流れる道である「気道」があるとされる。ヨーガでは、これをナーディと呼ぶ。主に3つのナーディがあるとされるが、全部で72000本ものナーディがあると説かれることが多い。

そして複数の気道が通る交差点があり、特に多くの気道が密集しているところを「チャクラ」と呼ぶ。これは、同時に神経が集中する場所(神経(しんけい)叢(そう))でもあり、重要な臓器があるところでもある。一般に、気道と神経と血管・血流は、深く関係しているとされる。

 

7.気の強化と気道の浄化の恩恵:心身の健康・悟り

ヨーガは、①気を強化することと、②気道を浄化して気道の中に十分な気がスムーズに流れるようにすることが、その人の心身の健康、煩悩・心のコントロール=悟りを実現するために役立つと説く。そして、アーサナ(ヨーガの体操、正しくは体位法・座法と訳す)や、プラーナーヤーマといった身体行法によって、気を制御できると考えている。

次に、具体的な気道(ナーディ)とチャクラの位置を示したものが図A・Bである。著名なヨーガ行者のスワミ・ヨーゲシヴァラナンダ師が解説する、3つのナーディと9つのチャクラの図である(『魂の科学』〈たま出版刊〉より引用)。

 

                                                          図A

 

 

                                                           図B

まず、三つの主要なナーディは、①スシュムナー管(尾てい骨から背骨(脊髄)を通って頭頂に至る。中央の気道)、②ピンガラ管(尾てい骨からスシュムナー管よりも右側を通って右の鼻に至る。右側の気道。別名スーリヤ・ナーディ)、③イダー管(尾てい骨からスシュムナー管よりも左側を通って左の鼻に至る。左側の気道。別名チャンドラ・ナーディ)である。

次に、9つのチャクラの位置と名前は、①頭頂:サハスラーラ・チャクラ、②眉間:アージュニャー・チャクラ、③咽頭部:ヴィシュッダ・チャクラ、④胸部・心臓部:アナーハタ・チャクラ、⑤肝臓部:スーリヤ・チャクラ、⑥膵臓部:チャンドラ(マナス)・チャクラ、⑦上腹部:マニプーラ・チャクラ、⑧下腹部:スヴァーディシュターナ・チャクラ、⑨尾てい骨:ムーラダーラ・チャクラである。

 

8.チャクラでの気道の詰まりが煩悩・欲望を生じさせる

ヨーガは、チャクラの部分で気道に詰まりがあって気がうまく流れず停滞すると、そのチャクラに対応した煩悩・欲望が生じると説く。気道が詰まっているチャクラによって、それぞれ異なる煩悩が生じる。

各チャクラの部分の気道の詰まりを取り除くことができたならば、煩悩は解消し、そのチャクラを越えて、エネルギーが上昇する。すべてのチャクラに詰まりがなくなると、エネルギーは、頭頂のサハスラーラ・チャクラに集中して、悟り・解脱が生じる。そして、頭頂に至る気道は、中央気道だけである。よって、中央気道にエネルギーが集まるときに、心は不動となり、悟り・解脱に至るといわれることがある。

なお、気道の中のエネルギーが不足している場合は、意志・集中力も弱い状態となる。次に、エネルギーはあるが、気道が詰まり、流れが阻害される場合に煩悩が生じる。煩悩のため心が不安定で、集中も妨げられる。最後に、エネルギーが強く、気道の詰まりもない場合に、煩悩がなく、心が静まり、集中力が強い。高い瞑想状態が生じる。

そして、各チャクラと煩悩の関係は、以下の通りである。

①ムーラダーラ・チャクラ--物欲、肉体への執着、怒り・嫌悪

②スヴァーディシュターナ・チャクラ--性欲、無智(物の考えにくい状態)、恨み(じめっとした憎しみの感情)

③マニプーラ・チャクラ--食欲、貪り、学問・才能への執着

④アナーハタ・チャクラ--プライド・卑屈、執着・愛著

⑤ヴィシュッダ・チャクラ--妬み・嫉妬心、地位欲・権力欲

⑥アージュニャー・チャクラ--慢心・自己満足・支配欲・善悪の(固定)観念、現世願望

⑦スーリヤ・チャクラ--怒り。内面の怒り・ストレスをため込んだ状態も含む。ムーラダーラ・チャクラの怒りよりもレベルが高いとされる。

⑧チャンドラ・チャクラ--無智(物が考えられない愚鈍な状態、動きが鈍い、目先の快楽に偏る、怠惰、自己中心で他に冷淡・無関心)。さらに、間違った霊的・宗教的な探求・魔境、イメージ上の性欲、覚醒剤の使用にも関係するともいわれる。

⑨サハスラーラ・チャクラ--特別なチャクラで、前に述べた通り、このチャクラにエネルギーがスムーズに集中することで、解脱を得ることができるとされる。

そして、各チャクラが浄化され活性化されると、そのチャクラに対応した能力が開発されるといわれている。逆に汚れると、そのチャクラに対応した煩悩・欲望が生じる。

次に、3つの気道に関しては、まず中央気道は、貪り・執着に関係する。どういう対象への貪りかは、どのチャクラの部位で、中央気道が詰まるかによる。なお、この気道だけは、他の気道と異なり、頭頂のチャクラに通じており、どこも詰まっていなければ、解脱・悟り・真理に対する貪り=探求心・求道心が生じることになる。

次に、右気道は、怒りに関係する。どういう性質の怒りかは、どのチャクラの部位で、右気道が詰まるかによる。

一方、左気道は、無智に関係する。どういう性質の無智かは、どのチャクラの部位で、左気道が詰まるかによる。

 

9.プラーナーヤーマによる気道の浄化と気の強化

  アーサナ、プラーナーヤーマなどのヨーガの身体行法は、この気道の詰まりを浄化することができるとされる。気道の詰まりは、経験的にいって、①筋肉や関節をほぐす、②血流を増大させる、③体を温める、④深い十分な呼吸、によって浄化することができる。よって、アーサナやプラーナーヤーマが有効なのである。

また、ヨーガ行法以外にも、同じような効果を持つ修行法として、気功の行法、歩行瞑想、(温泉の)入浴などは有効である。さらに、プラーナーヤーマやムドラーは、尾てい骨に眠っているプラーナ(気・生命エネルギー)の親玉ともいうべきクンダリニー(宇宙エネルギー・根源的生命エネルギー)を覚醒させる効果がある。このクンダリニーが覚醒すると、その力強いエネルギーの上昇によって、ナーディを物理的に浄化することもできる。たとえていえば、詰まった配管を高圧洗浄するようなものである。

プラーナーヤーマによる気道の浄化について述べたが、プラーナーヤーマのもう一つの重要な効果が、気(プラーナ)自体の強化である。すなわち体外の気(外気)を体の中に取り込んで、体内の気(内気)を増量・強化することである。

なお、これは、プラーナーヤーマで息を止めている時に起こるといわれることがある。すなわち、保息を伴わない普通の深呼吸では、酸素は体内に入るが、気(プラーナ)は、体内に充填されないともいわれることがある。


10.プラーナーヤーマの様々な恩恵:健康・集中力・悟り・解脱

 プラーナーヤーマの恩恵を列挙すると、第一に、一般の健康増進の呼吸法(例えば、先ほど述べた長生き呼吸法)と同様に、心身の健康を向上させる。というのは、心身の健康は、気の状態と密接に関連するとされるからである。心身を軽快で楽にして、究極的には、内的な歓喜さえもたらすとされる。

第二に、物事の達成・人生の成功をもたらす。心身の健康、安定した心、強い意志・集中力が得られるからである。究極的には、極めて高い集中力を持った状態(禅定・サマディ)を達成する。これは、スポーツで、選手が雑念なく無思考の深い集中状態に入って最高のパフォーマンスを発揮する「ゾーン状態」や、何もかもが流れるようにうまくいく心理状態とされる「フロー状態」に通じるものである。

最後に、悟り・解脱、すなわち、深い心の制御・安定・苦悩からの解放を与える。そして、その心の安定は、正しい判断力や直観力を含めた智慧をもたらす。

 

11.プラーナーヤーマの実践の準備:環境・服装・姿勢・弛緩

次にプラーナーヤーマの実践について述べる。まずその準備についてである。

プラーナーヤーマを行う環境に関しては、静かで換気の良い場所がよい。そうした自然の中で行えればよいが、都会の自宅の中で行う場合には、室内を整理整頓し、換気の良い状態にする。

加えて、できれば、室内に仏画・自然の写真など、見ると心静まるものを置くとよい。さらに、室内に、気持ちの静まる瞑想用のお香や、ヨーガ・仏教などで用いる聖音を鳴らす法具などがあればいっそうよい。すなわち、見て・聞いて・嗅いで心が静まるものである。

次に服装であるが、なるべく体を締め付けないものにする。時計・ベルト・バンド・靴下などは外しておく。こうして、血の巡り・気の巡りを改善し、筋肉がリラックスしやすいようにするのである。

姿勢については、安定した座り方で座る。ヨーガ・仏教の座法を組むことができれば、なおのことよい。そして、背筋を伸ばして、肩・首・腕などの力が抜けるようにする。体の緊張が抜けることが、気や血の巡りを改善するからである。また、顔は下に向けずに前を見て、背筋が曲がらないようにする(視線は下を見てもよい)。

腕については、いろいろなやり方がある。力を抜いて手のひらを膝に合わせる形で膝に置くことや、仏教の座禅などで用いられる手の組み方(左手の手のひらの上に右手を重ね、座法を組んだ足の上に置く)もよいだろう。

最後に、呼吸法を行う前に、顔・首・肩・腕・胸・腹部の力を十分に抜いておく。体に力が入っていると、気道が詰まりやすくなる。時間があれば、呼吸法を行う前に、各部の運動を行うとよい。ヨーガでは、プラーナーヤーマの前に、アーサナ(ヨーガ体操・体位法)を行うことが多い。

特に現代人が凝っていることが多い首や肩をほぐす。首は、ゆっくりと大きく回す。時計回りに回したら、その後、逆に反時計回りに回す。これを何度か(何セットか)繰り返す。

コツとして、回す前に息を吸い、回している際に息を出すとよい。息を出している時の方が、体は弛緩しやすいからである。人間の体の中で、頭部や胸部に比較して、首の部分が一番くびれて狭くなっているために、気の流れも停滞しやすい。

肩の力を抜くには、肩を前から後ろに大きくゆっくり回し、その後、逆に、後ろから前に回す。この際も、回す前に息を吸い、回している時に息を出すとよいだろう。ないしは、単純に肩を上にいったん持ち上げて、その後、力を抜いて落とすのも有効である。いったん緊張させた反動を使うと、弛緩しやすいのである。

腕も弛緩させておく。肩の筋肉と神経は、腕の筋肉・神経と繋がっている。当然、首から肩を通って腕に至る気道もある。腕は、手首・肘などの関節がよくほぐれるように、ぶらぶらと振るとよいだろう。

肩・首・腕がほぐせたら、胸部と腹部を手でマッサージして、ほぐしておくのもよいだろう。特に張りやコリを感じる部分があれば、その部分で気道が詰まっている可能性が高いので、念入りにほぐす。そして、気道の浄化に慣れると、自分なりに、気の流れの詰まりがわかるようになるので、そうしたら、その部分を念入りにほぐすようにする。

 

12.基本呼吸法の実践の仕方

ヨーガの最も基本的な呼吸法は、1:1:1の比率で、入息(吸気)と保息と出息(呼気)をリズミカルに繰り返すものである。最初は例えば、4秒・4秒・4秒で入息・保息・出息を繰り返すとよいだろう。

集中力が増大してきたならば、1:2:2の比率(例えば4秒・8秒・8秒)、さらには1:4:2の比率(例えば4秒・16秒・8秒)で行う。保息が長いほど、集中力が高まっている兆候とされ、より高度な実践となる。

なお、精神集中のポイントであるが、最初はまず、息の秒数に集中する必要があるだろう。それに慣れてきたら、同時に、出し入れする呼吸にも集中する。なお、眉間の所に精神集中を行う方法もある。体の上位の部分に集中すると、そのぶん気が引き上がりやすくなるとされる。実行中に、特段の身体的な変化があれば、指導員の指導を受けることが望ましい。

 

13.左右の気道を浄化するプラーナーヤーマ

次に、左右の気道を浄化するプラーナーヤーマについて述べる。その前にまず、気道が詰まっているか否かをチェックする方法を述べる。その最も簡便(かんべん)な方法は、左右の鼻の詰まり具合をチェックすることである。

右気道(ピンガラ管)が詰まっている場合には、右の鼻が詰まっている。左気道(イダー管)が詰まっている場合には、左の鼻が詰まっていると考えるのである。そのためには、口を閉じて、片方の鼻を押さえ、息の出し入れをしてみればすぐにわかるだろう。

その場合、①右か左かのどちらかが詰まっているか、②右も左も詰まっているか、③どちらも詰まらずにスムーズであるか、という結果になるだろう。たいていの人は、どちらかが詰まっていることが多い。

 

14.右の気道を浄化する:スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマ

右の鼻が詰まっている場合には、左鼻を押さえて、右鼻のみを使って、息を繰り返し出し入れする(スーリヤ・ベーダナ・プラーナーヤーマ)。そうすると、徐々に右鼻も通ってくるだろう。なお、別のやり方として、右鼻から入れて、左鼻から出す方法もある。

このプラーナーヤーマの場合にも、前に述べたように、背筋はまっすぐに伸ばし、背中・首・頭は一直線になるようにする。顔を下に向けたり、左右に向けたりせずに、まっすぐ前を見るようにする。鼻を押さえている手が疲れてくると、手が下がって、顔が下や横に向きやすいので注意する。使っている手が疲れたら、もう一方の手に交代してもよい。

息は、腹式呼吸で十分に吸い込み、しばらく止めて、その後、十分に出すようにする。それぞれの息の秒数は決まっていないが、例えば、基本呼吸法と同じように、4秒で吸って、少し止めて(4秒ほど)、4秒で出してもよいだろう。

そして、呼吸の出し入れの際に、多少の音がするのがよいともいわれる。そのぶんだけ強く詰まりを浄化できるからであろう。しばらく続けているうちに、徐々に右の鼻も通ってくるだろう。

なお、秘訣として、右気道に詰まりがある場合は、上記のプラーナーヤーマとともに、右の腹部にある肝臓の部分(スーリヤ・チャクラ)をよくマッサージするとよいことが多い。このチャクラは右気道に深く関係するからである。

 

15.左の気道を浄化する:チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマ

左鼻が詰まっている場合には、右鼻を押さえて、左鼻だけを使って、息を繰り返し出し入れする(チャンドラ・ベーダナ・プラーナーヤーマ)。なお、別のやり方として、左鼻から入れて、右鼻から出す方法もある。

同じように、背筋はまっすぐにし、背中・首・頭は一直線、顔を下や横に向けず、まっすぐ前を見る。手が疲れてくると、顔が下や横に向きやすいので、もう一方の手に交代してもよい。

息も、腹式呼吸で十分に吸い、しばらく止め、十分に出す。それぞれの息の秒数は、決まっていないが、例えば、基本呼吸法と同じように、4秒で吸って、少し止めて(4秒ほど)、4秒で出してもよいだろう。

また、呼吸の出し入れの際に、多少の音がするのがよいともいわれる。そのぶんだけ、強く詰まりを浄化できるからであろう。そして、しばらく続けているうちに、徐々に左の鼻も通ってくるだろう。

また、左気道に詰まりがある場合は、上記のプラーナーヤーマとともに、左の腹部にある膵臓・脾臓の部分(チャンドラ・チャクラ)をよくマッサージするようにするとよいことが多い。

 

16.両方の気道を浄化:スクハ・プールヴァカ・プラーナーヤーマ

こうして、詰まっている側の鼻が通ってきたら、左右の鼻を交代に押さえて、息の出し入れをする。

まず、右鼻を押さえて、左鼻から息を入れ、しばらく息を止めたら、次に、左鼻を押さえて右鼻は開けて、右鼻から息を出す。次に、右鼻から息を出し切ったら、同じ右鼻から息を入れて、しばらく息を止め、右鼻を押さえて左鼻は開けて、左鼻から息を出す。

そして、再び左鼻から息を入れて、これを繰り返していく。なお、姿勢、手の使い方、呼吸の仕方の注意は、前記のプラーナーヤーマと同様である。

入息・保息・出息の比率・秒数は、基本呼吸法と同じで、1:1:1の比率、例えば4秒・4秒・4秒)で始め、集中力が増大してきたならば、1:2:2(例えば4秒・8秒・8秒)、さらには1:4:2(例えば4秒・16秒・8秒)で行う。保息が長いほど、集中力が高まっている兆候とされ、より高度な実践となる。

長く息を止める(保息・クンバカ)ほど、心拍数や血流が増大して体が温まり、気道の詰まりは浄化しやすくなる。ただし、無理はいけないので、気を付けるようにする。特に、心臓疾患・高血圧などがある方は、無理をしないことである。

 

17.気道を強く浄化するカパーラ・バーティ

これは、両鼻から激しく呼息と吸息を繰り返すものである。腹部をちょうど鍛冶屋の使う鞴(ふいご)のように、膨れさせたり、へこませたりさせて行うことが名前の由来になっている。

具体的には、他の呼吸法と同様に、口からではなく両鼻から、腹筋を使って短く鋭く、息を出し入れし、出息と入息を繰り返す。保息は行わない。出息と入息は20回ほど繰り返して、1セットとして終了する。

少し休んだら、同じことを繰り返す。ただし、気を引き上げる力が非常に強いので、一度には20回ほどにしておくのがよい。また、体が熱くなったり、体の一部に多少の痺れを感じたり、多少ぼーっとした感じになることがある。不快な感じが生じたら、出息・入息の回数を減らして加減するか、中止して、指導員の指導を受けることが望ましい。

 

18.深い瞑想に入るブラーマリー・プラーナーヤーマ

このプラーナーヤーマは、自分で作り出す振動音のヴァイブレーションによって、心を静めて、深い意識状態・瞑想状態に入っていくものである。瞑想に入る準備の呼吸法ということもできる。

具体的なやり方は、まず、両鼻から十分に息を吸い、その後、蜂の羽音のような「ブーン」といった音を立てながら、なるべく長く鼻から息を出していく。そして、これを繰り返すというものである。保息は行わない。

これに熟達するならば、最も深い瞑想状態であるサマディに入ることができると経典に書かれている。

 

 

※第1章参考文献

・『NEWSCAST』「『鬼滅の刃』の「全集中の呼吸」は現実でも使える?? 自律神経の名医が健康効果を検証」(2020年5月19日)

https://newscast.jp/news/148255?fbclid=IwAR0LFhIzt2jy8uAXeW1wdLZ6PpLJkvyC9E-v5TY5bu--2liD-5SySn1awyQ

・『TOCANA』「『鬼滅の刃』全集中の呼吸を「ヨーガの王」成瀬雅春が徹底解説!能力が一気に開花する"超人"呼吸法など伝授」(2020年12月22日)

https://tocana.jp/2020/12/post_191864_entry.html



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